広島大学附属福山中学校総合的な学習「LIFE」の実践 |
学び方を学ぼう |
1.講座名 | 学びの基礎1 |
2.対 象 | 中学1年生全員122名 (男子61名,女子61名) 3クラス編成 |
3.学習の目標・ねらい | 中学校入学でこれからの6年一貫教育のスタートを切ったわけだが,この新入学生徒たちの学習や学びということに対しての意識は,これまでの学習習慣から,主に受け身的な部分でとらえられているようである。つまり,生徒にとっての学習とは,あたえられた課題を,適切に解決していく方法や知識を習得することであり,知識・技能の伝授,習得と認識しているようである。
これに対して,われわれが生徒にはぐくませたい「学習」,「学び」は,知識の習得や文化の継承といった部分もあるが,それをもとに新たな文化を創造するための下地をつくるものであると考える。「学び」とは,習得した知識や各自が得る情報から,課題を見つけ,調べ,研究し,解決していこうとする主体的な活動であるべきである。そのためには,「学び」をほかならぬ「わたし」が「やる」という実践的なものにしていく必要がある。このような実践では,自分の頭の中だけで「学ぶ」というのではなくなり,自分で考えたことを整理し,発表し,他者に評価してもらうなかでさらに深められていくものとなる。つまり,クラスなど共同体の営みのなかで深められるものとなり,その中で,自分を表現し,互いに意見の交換や相互理解をすすめていく展開が必要となる。また,この「学び」を通して,自分と社会との関わりや,他者と関わりを知り,相互の意見交換を行うなかで,「自分とは何か」,「どういう自分になりたいのか」,「自分が目指すものは何か」などを考えさせることができる。このように,「学び」をアイデンティティを確立していく営みつまり,自分探しと位置づけたい。 1年生LIFEでは「学び基礎」と題して,自己学習,自己表現,相互理解,相互評価を中心にした授業を計画した。授業では主に,コンピュータを活用していくが,単にコンピュータ操作やコンピュータの活用を目標とするのではなく,コンピュータを便利な学習の道具と位置づけ,これを利用して,クラスの中での自己表現活動や創作活動を行っていく予定である。また,ネットワークを活用することで,さらに大きな社会へ自分を位置づけ,「学び」を深めていくことができると考えている。 授業で扱う題材も,常に「学び」を意識したものにしていきたい。当初は,『轡田隆史 「考える力」をつける本』の文章を題材として,ワープロへの文章入力や装飾について習得する一方で,その文ついての感想を作成させる。また,自己紹介や図書紹介を入力させるが,このときは,すぐにコンピュータへ入力とするのではなく,あらかじめ原稿を書きじっくり考えさせた後に,コンピュータへ入力とさせていく。その後は,「20年後の世界」を題材に,各自の興味を持ったテーマを絞り込んで個人研究をすすめる。未来を考えるには,現在がどのようになっているのか,また,そこに至るまでの開発や発明の歴史がどうであるのかなど,過去から現在,未来へのつながりを考えた研究をさせていく。また,それらが抱えている問題点や課題を多角的に分析させたい。これらの内容は,各自のホームページという形でクラス内へ発表し,掲示板機能を利用して意見交換をするなかで相互評価を行っていく予定である。 |
4.年間指導計画 |
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5.具体的な学習内容 |
『20年後の世界』
20年後の世界を共通テーマに設定し,その中でさらに各自が興味を持ったテーマを決めて,調査・研究および創造活動を行っていく展開を実施している。
20年後とは,生徒たちが社会に出た後,おそらくそれぞれの職の中堅として活躍しているだろう年頃である。また,現在の親の年齢に近くなっている頃である。あまりに先の未来の世界を想像するのではなく,近未来を,現在,そして過去からの継続としてとらえ,「われわれの住む世界」としてどのようになっていくか予想し,創造していく内容を課題にした。
この取り組みは夏休みの宿題としてスタートした。スタートするにあたり,この課題の主旨説明と,数種のテーマの例を紹介した。(表参照) 夏休みはこれらのテーマの開発の歴史や,現在の課題などを調べることにした。
たとえば,「20年後の車」を調べる生徒は,
夏休みに,車の発明から現在までの開発の歴
史や,各国の車生産量の比較や,車社会の抱
える問題点やその解決に向けた動きなど多角
的に調べる必要がある。また,20年前はど
うだったのかなどは,家庭の方に聞き取り調
査を行うのも有効である。このように,学校
で学んだ視点を基に,自分で資料を調べ,身
近な人との連携を持つなかで学習を深めてほ
しいと考えている。また,近隣には福山歴史
民族博物館,自動車時計博物館,はきもの博
物館,三次の風土記の丘など,地域の文化を
テーマ例
1.20年後の乗り物 2.20年後のエネルギー 3.20年後の森林 4.20年後の海 5.20年後の衣類 6.20年後の住まい 7.20年後の食 8.20年後の家電製品 9.20年後の宇宙開発 10.20年後のスポーツの記録 |
この他,資料収集にはインターネットの活用も有効である。遠隔地の博物館資料を調べたり,大学や企業での研究を調べることで,より多角的な実状や,現実的な未来像や課題を把握することができる。ただ,これらの未来像はややもすると大学や企業の研究者の未来像であり,生徒はそれを調べたにすぎないという結果になるおそれもある。各生徒の未来像を考える際には,集めた資料に対して批判的な視点を忘れないようにするとか,各自はそれら資料についてどう感じるかなどを指導のポイントにして主体的な活動を行わせたい。
このように過去から現在の歴史や課題を調べた後に,20年後の世界がどのようになっているかを予想し,その世界を各自の表現法で発表していく。予想する際には,これまで各教科で学んだ内容をベースとするが,教科を越えた多角的,総合的な視点や思考力を育てたい。また,相互評価によって,このような総合的な視点や課題がつかめてくると考える。
表現法としては,文章やグラフや表そして,予想図,または音や映像もあるかもしれない。これらの表現ではマルチメディアを活用できるコンピュータが有効である。授業では,グラフィックソフトを利用しての作画を扱い,これらの発表手段としてホームページの作成を行う。ホームページに掲示板機能を組み込むことで,マルチメディアを活用したレポート作成のみならず,それを見た他者の意見も記入することで相互評価を実施する。
各自が調べ創造したことを,クラスの仲間で評価しあうことで,新しい視点が浮かび上がったり,各自の学びがそれぞれの自信となるであろう。このようにして学びの深化と共有化を図るとともに,コンピュータを学びを支援する一つの道具として定着させたい。
これまで各自で調査研究してきた20年後の世界について,その予想図などマルチメディアを使って発表する。この際,過去から現在までのつながりを考慮して,なぜそのように予想したのか,予想した視点や,その必然性などをあわせて発表させる。これに対して質問や意見を交換することで発表者の意見を深めるとともに,多角的に,また総合的な視点で批評できるようする。
その後は,ネットワークの掲示板機能を用いて,提案者のホームページに対しての相互評価を行うことでそれぞれが批評される側と,批評する側として学びの共有化を深める。
展 開 | 学 習 内 容 | 指 導 上 の 留 意 点 |
導入 (5分) | これまで,研究してきた20年後の世界
についてそれを考える際の視点について振 り返る。 |
単なる予想図をつくってき
たわけではなく,過去からの つながりの中で未来を「予言」 しようとしてきた。 |
展開
・生徒の発表 (20分) ・掲示板を活用
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●生徒の発表および質疑応答
・テーマ選択の動機 ・過去からの歴史について ・未来像 自分が強調したい部分を明確に。 [質疑応答] ・共感する部分,異なる部分などをその 根拠を明確にして質疑応答。 ●ホームページを活用した相互評価 発表と質疑応答を参考に,ホームペー ジに各自の意見を記入する。 |
各自が描いた未来像の根拠
となる資料や研究などを,参 考文献があればそれを明確に させる。 同じテーマを研究した生徒
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終結 (5分)
本時のまとめ と次回の予告 |
次回,ホームページに記入してもらった
意見について,各自のコメントを発表する。 |
コンピュータについては,生徒は文章の作成や,作図および
情報収集・整理の道具として抵抗なく受け入れたようである。
また,まだ実践途中ではあるが,各自の思いや意見を活発に
表現できるようになってきた。教科の枠にとどまらず,いろい
ろな視点で考察することが大切であることや,テーマを各自で
選ぶことでより主体的な活動になってきた。相互評価を有効に
活用して,学びの深化をはかりたい。 写真 授業風景