広島大学附属福山中学校総合的な学習「LIFE」の実践 |
環境について学ぶ |
1.講座名 | 環境について学ぶ |
2.対 象 | 中学2年生37人(男子16人,女子21人) |
3.学習の目標・ねらい | 豊かな自然を五感を使って感じることで,自然や環境を大切にする意識を育む。また,身の回りの環境を観測するための技能を身に付け,科学的にとらえる能力を高める。観測したデータや環境問題について世界の仲間と交流し,自分の意見を簡潔に伝える能力を育成する。さらに,環境のために行動する能力を育てる。 |
4.年間指導計画 |
月 | 学習のねらい | 単元名 | 学習の具体的な内容 | ||||||
1 |
4
5
6
7 |
○身の回りの環境を観測する
ための技能を身につける。 ○豊かな自然を五感を使って 感じることで,自然や環境 を大切にする意識を育てる。 ○自然を科学的に捉える能力 |
○身の回りの環
境を観測する |
○身の回りにある自然を観測し,科学
的に捉えるための技能を習得する。 A 気象の観測(GLOBEプログラム による観測) 1大気の観測 2雲の観測 3雨,雪の観測 4池の水の観測 |
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学 | を身につける。 | ||||||||
○観測したデータを他の観測 | |||||||||
期 | 者と共有し,理解を深める。 | 5植物の観測 など
B 酸性雨の観測(酸性雨調査プロ |
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○観測したデー
タを登録する |
ジェクトによる観測)
○観測データをインターネットを利用 して登録するための技能を習得する。 |
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夏
休 み |
7
〜 8 |
○環境問題について,観測や
実験を基に課題研究を行い, 学習を深める。 |
○身の回りの環
境に関する課 題研究 |
○グループ毎に課題を設定し,課題研
究を行う。 |
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2
学
期 |
9
10
11
12 |
○環境問題についての理解を
深める。 ○環境問題について世界の仲
|
○環境問題の原
因を考える ○これまでの学
|
○環境問題についてインターネットを
利用して学習し,環境問題の発生す る原因を科学的に認識する。 ○これまでに行われてきた企業や自治 体,住民などの努力やその成果をま とめる。 ○インターネットを利用して環境問題 について同じ観測をしている世界の 仲間と意見を交換する。 Aメールの利用 B掲示板の利用 Cチャットの利用 |
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3 | 1 | ○環境のために行動する能力 | ○交流の深化 | ○環境問題解決のためにともに行動す | |||||
学
期 |
2
3 |
を育てる。
○学習の成果をまとめ,表現
|
○学習のまとめ |
る仲間を増やす。
○自分の意見を伝え,行動の輪を広げ る。 ○自分たちの活動やアピールをホーム ページにまとめる。 |
5.具体的な学習内容 |
1998年度は「酸性雨の原因と影響を考える」で実施
この授業は,文部省による1997〜98年度の「環境データ観測活用事業(通称:EILNet)」および,1995〜96年度の「環境のための地球学習観測プログラム(通称:GLOBE)」モデル校指定事業によっておこなった研究を中心に構成したものである。
広島県は全国で,松枯れの被害にあった森林面積が最も広い県である。中国地方を始めとして全国に蔓延している松枯れは,これまで松枯れの主たる原因と考えられていた「松食い虫」による被害というよりも,実は大気汚染や,それが雨や霧,露に溶けた「酸性雨・霧・露」により,松の樹勢が衰えていることの方が根本的な問題であるという指摘が研究者から出されている。
現在進行している大気汚染を考えるとき,もはや「四日市公害訴訟」など各地で公害問題として提起された局所的な汚染ではなく,汚染物質が国境を越えて拡散し,地球規模での汚染としてとらえることが必要な状況になってきている。ヨーロッパの「黒い森」や北米の針葉樹林は,酸性雨による被害の例として,世界への警鐘となっている。こうした状況の中で,環境教育においても「地球的な視野に立った」グローバルな視点が求められている。中でも学校教育に寄せられている期待は大きく,「環境に対する人類の責任と役割を理解し,環境保全に積極的に参加する態度や,環境問題解決のための能力を持った生徒の育成」が急務とされている。
環境問題に関して「Think Globally, Act Localy」というスローガンがある。これは60年代にウォード(Ward, B.)とデュポス(Dubos, R.)という環境研究者が作った言葉だといわれている。グローバルな視点を持って環境教育を進める必要のある今,環境教育の場にインターネットのような情報ネットワークを導入することはきわめて意義深いものと考えられる。GLOBEやEILNetの最大の特徴は,インターネットを利用することである。参加した生徒たちが共通の項目について観測を行って観測データを共有し,それらの観測の経験やデータをもとにした生徒同士の交流がおこなわれている。環境問題を解決するための能力の1つとして,コミュニケーション能力は欠かすことはできない。当校では,GLOBEやEILNetに用意されているコミュニケーションのしくみを活用して,生徒にさまざまな「交流」をおこなわせてきた。この単元においても,インターネットをコミュニケーションツールとして最大限に活用した学習を展開している。
この単元では特に酸性雨を取り上げ,生徒の手による観測をもとに,大気環境の問題について学習した。
環境教育の原点は,生徒による直接体験である。生徒が直接身のまわりの自然を観察し,その中から自らの判断で環境の状況を把握し,そこに危機的な状況や改善すべき点を見つけたときに,解決への動機が芽生えると考える。酸性雨は,生徒が比較的簡単な方法で測定することができ,多くの場合自分の観測した雨のpHの低さを実感できるので,環境教育として取り組みやすい教材といえる。
しかし,酸性雨という現象を観測することは容易でも,雨がいつの時点でどこからやって来た物質によって汚染されたのかを特定することは難しい。また酸性雨による被害もさまざまな現象が複雑に絡み合い,単純に酸性雨が原因であると特定することが難しい場合が多い。本時は,酸性雨の身のまわりへの影響を学習する2時間目にあたるが,EILNetで行われている大理石の暴露実験を取り上げ,大気汚染物質のふるまいについて学習を進めた。
時間配分 | 学習活動・指導過程 | 指導上の留意点 |
導 入
(10分) |
○大理石とはどのような物質か。
○大理石は酸性の水溶液でどのような反応が起こるか。 |
・酸性雨と水溶液の濃度の
違いを意識させる。 |
展 開
(25分) |
○大理石の暴露実験とはどのような実験か。
・実験の状況と経過を思い出させる。 ・大理石の質量の変化を調べる。 ・大理石の質量変化の原因について考察する。 ○インターネットを使って,他校のデータと比較する。 |
・雨の当たる所,百葉箱の
中,ビニール袋に入れて 保存した3つの試料を比 較することの意義に気づ かせる。 |
終 結
(15分) |
○本時の学習の結果をもとに,電子掲示板や電子メー
ルを利用して,交流を行う。 ○次時の予告 |
・ネチケットに留意させ
る。 |
<実験1> 大理石を屋外(雨が当たるところ)に設置したときの質量変化を調べる。
1 4枚の大理石(1番から4番)を準備し,それぞれの質量を測定する。 2 「大理石試験板屋外暴露器具」を大理石の面が南側に向くように設置し,固定する。 3 大理石(1番から4番)を,「大理石試験板屋外暴露器具」に釣り糸などで固定する。 4 約3ヶ月経過後,1番の大理石を取りだし,質量を測定する。 <実験2> 大理石を百葉箱内に設置したときの質量変化を調べる。
実験開始 1998年5月25日
大理石(1番)の質量 大理石(5番)の質量
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<実験3> 大理石を蒸留水にひたして導電率を測る。
1 きれいな100mlビーカーを3個(ビーカーA,B,C)を用意し,それぞれのビー
[実験3の結果] ビーカーAの導電率:( ) ビーカーBの導電率:( ) ビーカーCの導電率:( ) |
「世界を視野に入れる」あるいは「世界と手を携える」ことは,地球環境の問題を考える上では,なくてはならない視点である。しかし,言葉では簡単でも,これまでの教育手段では教員の多大な熱意と実践力を必要とした。インターネットという,画像や音声も扱えるマルチメディア環境が利用可能になったことで,環境教育は大きな転換点を迎えたといえるだろう。
「Think Globally, Act Localy」の”Think Globally”の部分において,酸性雨調査は生徒たちに重要な示唆を与えてくれる。例えば日本海側では冬の期間pHの値が低下し汚れた雨や雪が降る。これは強い北西の季節風によって中国大陸などからの汚染物質が運ばれてくることと関係しているとする考え方がある。こうした内容を理解するにつれ,生徒は地球全体をシステムとしてとらえることの大切さに気づいている。地球環境問題としての認識,すなわち地球環境を回復させるためには国を越えた取り組みが必要であり,そのためには国際理解や国際協調が必要となることに気づき始めている。このような「地球システム」の中で環境問題を考えることの重要さを認識できるように授業を展開したいと考えている。
”Act Localy”を実行しておられる学校も多いことと思う。当校でも,ゴミの分別を生徒の美化委員会が中心となっておこなって,瓶・缶類や古紙の再資源化に取り組んでいる。しかし,実際には再生紙の価格は新しい紙より高く,現時点でのリサイクルの難しさも,生徒たちは知っている。「自分たちがやっているような小さなことでは,環境をよくすることはできないのではないか。」と悲観的になっている生徒もいる。
国内や海外との交流を通して,自分たちだけでなく多くの仲間が環境問題を考えているという連帯感が芽生え,それがこれからの生徒の ”力”になっているように感じている。環境問題について考えているのは自分たちだけではない。世界中にたくさんの仲間がいる。言葉や生活習慣は違っても考えていることは同じだという思いと国際理解の観点が,これからの環境教育で最も重要なポイントであると感じる。
そうした意味でも環境教育は,総合学習の中で扱う内容として最もふさわしいものであると感じている。