広島大学附属福山中学校総合的な学習「LIFE」の実践

文章で表現しよう

1.講座名 実感と創造「郷土の文学」
2.対 象 中学3年生 23人(男 11人,女 12人)
3.学習のねらい
ものを活用することには長けているが,ものごとに感動し,それを自分のことばで表現することには苦手な傾向がみられる。そのため,実感を大事にして自分の感性をみがき,自分のことばで自分の作品を創りあげる力がもとめられている。

それは,“わたしたちの郷土には,約1200年前につくられた歌があり,それを現代のわたしたちがよむことができるという驚きと感動”とからはじまる。具体的には,万葉歌人大伴旅人が鞆の浦に立ち寄ってつくった「三首のむろの木の歌」の存在を知り,歌にこめられた「旅人の心」にせまろうとすることからはじめることになる。

今の生徒たちは種々の機器を操作し,既成の教師自身が自らの感動にもとづいて作成した教材を,生徒が自分の感性にたよってよみ,さらに現地学習会などを通して実感をもっていっそう深くよみ味わう。同時に,生徒自らが課題(「わたしの大伴旅人物語」をつくること)を設定し,課題解決に必要な情報収集・分析を行い,自分の作品を創りあげることをめざす。いいかえれば,生徒と教師とがいっしょになってひとつの作品を創りあげるという学習である。 

4.年間指導計画

  学習のねらい 単元名 学習の具体的な内容
1 

学 

4 
月 

〜 

7 

自分の感性と自分のことばで作品を味わう

 

「旅人の心」をよむ 1

・ 校内の「むろの木・歌碑」の確認。
・ 自主作成教材「『鞆の津とむろの木』-大伴旅人物語」を読んで旅人の生涯の概要を知る。
・ 語釈なしで旅人の歌にあたり,「旅人の 
心」をよむ。 
・ 自分たちのことばでつくった口語訳にも とづいて「旅人の心」をよむ。
2 

学 

9 
月 
〜 
12 
現地にたった実感をもとにより深く作品を味わう
 
「旅人の心」をよむ 2
 
・ 「鞆の浦」現地学習会,映像(桜井・飛 鳥・奈良・太宰府のスライド)を通して,「旅人の心」をより深くよむ。 

・ 図書室で必要な資料を収集し,「自分の大伴旅人像」のイメージをふくらませる。

3 

 期

1 
月 〜 
3 
創作・発表活動を通 して自己表現をする
 
「わたしの旅人 
物語」 をつくる
 
・ いままでの学習をふまえて,400字詰めの原稿用紙20枚以上で,「わたしの旅人物語」を創作する。 
・ 自分の作品に題をつけて,簡易製本する。 
・ 完成した作品を互いに発表し合う。

5.具体的な学習内容

1.単元名  「鞆の津とむろの木」− 大伴旅人物語 −
2.単元のねらい

自分たちの身近な所にある古典の世界へ足をふみ入れ,当時の人々の心にふれる。すなわち,わたしたちの町の古い港,鞆の津とそれにかかわる大伴旅人の歌をよむことにより,万葉人の心にふれ,「万葉集」に親しむきっかけとしたい。

また,この学習を通して,郷土の風景の中に歌(文学)のあることを知り,郷土を見直し,郷土を大切にする心を養ってほしい。

3.本時のねらい 「自分の旅人像」を描くことによって,古典をたのしむことを知る。

4.学習指導案

時間 指導項目 指導内容 ・ 学習活動 指導上の留意点
 

 

 

  

10分

 

 

20分

 

 

45分

50分

 

 

発表
   

 

 

理解
 

 

創作 
表現

 

鑑賞
   

 

・今までの学習内容の確認 

・「鞆の浦現地学習会を通して感じた旅人の心」 についてまとめたものをよむ。 

  (数名に指名して発表させる) 

               

 

・各自,教材「鞆の津とむろの木」を黙読する。 

    

 

・都(平城京)の自宅にいる旅人が 「『鞆の浦の思い出』をかたる」という形で,200字程度にまとめる。 

            

・数名に指名して発表させる。 

        

・各自「むろの木の歌三首」をよむ。

・各自の書いた「旅人の心」の用紙を配布して おく。 
  

 

 

 

・「旅人の生きてきたあとをたどる」ことを指示する。 

          

 

・200字用の原稿用紙を配布する。 

・机間巡視をする。

5.まとめと課題

学習を通して,生徒・教師ともに楽しむことができたのが一番の収穫であろう。生徒は,はじめはとまどいながらも,自分が動かなければ何も進まないことを知り,少しずつ主体的に取り組む姿勢がでてきた。そして,自分の知らなかった世界に足をふみ入れた驚きと感動にふれた時,飛躍的に学習意欲の向上がみられた。以後,自分の感性に自信をもち,理解力・表現力・創造力を結集してひとつの作品をつくりあげるよろこびを感じることができたといえよう。また,教師は自身の感動にもとづいて,新しい教材を作成するよろこびと,生徒とともに学ぶ楽しさを味わうことができた。

いずれの場合も,今回の学習の原動力になったのは,「実感・感動」であったといえよう。

しかし,まだ試みの段階で,生徒自らの手で学習の対象となる題材を探し,選択すること,この学習が生徒の将来とどうつながっていくか,すなわち,「生きる力を育む」こととどうかかわってくるかについての展望が不十分であることなど,残された課題は多い。

フィールドワーク(鞆の浦現地学習会)
生徒作品「わたしの大伴旅人物語」
自主作成教材 [鞆の津とむろの木]  ―大伴の旅人物語―