広島大学附属福山中学校総合的な学習「LIFE」の実践

情報を分析し,自分の意見を持とう

1.講座名 情報の分析と伝達
2.対 象 中学3年生 45名(男子33名,女子12名)
3.学習の目標・ねらい 現代の情報社会の中で,生徒達はあふれるほどの情報にさらされている。毎日,新聞や雑誌, TV報道などを通して様々な社会問題が伝えられている。こうしたメディアによって伝えられる 意見を聞くと,我々はそれが「真実」であり,「正しいこと」であるかのように受け取りがちである。しかし,こうした情報の中には根拠のあいまいなもの,扇情的なものなど様々な情報が含まれている。情報の発信者がどのようなデータ(事実)に依拠し,それにどのような解釈を加えその意見を構成しているのか。そもそもその意見は確固としたデータに基づいているのであろうか。また解釈についても,そのデータからそうした解釈は成り立つのであろうか。生徒がこうした情報を批判的に分析し,自主的に評価・判断できるようになることが必要であろう。さらに,こうした社会問題に対する自分の意見を構成することができ,かつ自分の意見を他者が納得できるように効果的に表現できるような能力の育成も必要であろう。この学習のねらいは,生徒が情報社会の中で,与えられる情報に対して,それらに惑わされることなく,自主的・主体的に生きて行けるよう,情報を批判的に分析し,自分の意見を形成することをめざすものである。

4.年間指導計画

単元名 学 習 内 容
◎意見の構造
 
〇説得的な意見の構造は,D(データ),W(解釈),C(結論),B(裏付)という構成要素からなっている。

D → C 
 ↑ 
 W 
 ↑ 
 B  

・[D]というデータ(事実)がある。
・そのデータは[W]というように解釈することが できる。
・それゆえ,[C]と結論づけることができる。
・この意見の正当性は,[B]という事実によって裏付けることができる。
◎意見の分析@ 〇意見を分析してみる。
新聞などにある比較的単純な意見として,読者の「声」の欄や「天
声人語」などを取り上げ,そこに主張されている意見を分析する。
◎意見の分析A 〇論争的な社会問題を取り上げ,賛成・反対,両方の意見を分析する。
意見の分析の発展段階として,論争的な社会問題を取り上げ,その
論争問題に対する賛成・反対両方の複数の意見を分析させる。
生徒は図書館その他の施設を利用し,書籍・雑誌・インターネット
などを活用しながら,情報を収集し,それに分析を加えながら,批判
的に情報を吟味していく。
◎意見の構成 〇論争的な社会問題について,意見を構成する。
自分の意見を表明するのではなく,この社会的論争問題に対して,生徒個人の意見とは関係なく,賛成・反対のいずれかに任意に振り分け,その立場に立って意見を構成する。

5.具体的な学習内容

意見の分析1 −他者の意見を分析してみよう−
 
1.単元名: 他者の意見を分析してみよう
2.学習の目標・ねらい 新聞などにある比較的単純な構造の意見を分析することで,意見を構造的に分析することを学ぶ。
3.学習指導案
 
 
展開 発 問 学習過程   

導入

・意見の構造とはどのようものであったか。

・意見の構造を確認する。

・意見の構造は,「データ」,「解釈」,「結論」,「裏付け」より構成される。

展開
[1]
・資料の文献にある意見を分析してみよう。

・この論者の結論は何か。

・この資料にはどのような
事実が述べられているか。

・本時の課題を確認する。

・資料を調べる。

・資料を調べる。

・日本の農業の先行きが心配である。

・d1筆者の友人からナシが届いた。


d2友人は毎年ナシを送って来て
いる。
d3友人は経営の規模を縮小する
計画である。
d4友人の家では,夫婦が高齢に
なった。
d5友人の家では後継者がいない。
d6友人の家では年寄りも年齢的
に介護の必要な時期に来た。
d7筆者の家でも農業経営の規模
を縮小している。

   
展開
[2]

 

・提示された事実に対して
どのような解釈が加えら
れて,結論に至ったので
あろうか。意見を構造化してみよう。
・意見を構造化
する。
   

・d456の事実からd3
の事実が導き出されてい
るが,それは正しいか。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

・d7はこの意見の中でど
のような機能を果たして
いるだろうか。
 
 
 
 
 
 

・分析に基づいて,筆者の
意見を構造化してみよう。

・意見の正当性
を吟味する。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

・d7の機能を
確定する。
 
 
 
 
 
 
 

・意見を構造化
する。

・w4農業は重労働であり,高齢者
には負担が重いと解釈され,
それゆえに高齢になると農業
経営の規模を縮小するという
d3の結論は納得できる。

・w5若い世代が農業に従事しない
ならば,w4の事実を補足す
る要因としてd3の結論は納
得できる。

・w6親の世代の高齢化が進み,そ
の介護には時間と手間を取ら
ることが予測され,これもw
4の事実を補足する要因とし
てd3の結論は納得できる。

・筆者は友人についてのd456か
らd3に至る論理の正当性を述べ
ているが,この一軒の農家が農業
の経営規模を縮小しようとしてい
る事実を踏まえて,日本の農業全
体の危機を指摘している。この論
理構造の中で,d7は帰納的にこ
の論理を裏付ける役割を果たして
いる。

・家族経営をしている友人の農家は
諸条件が重なって,経営規模を縮
小せざるを得なくなっている。この事実は筆者においても該当する
ことであり,おそらく日本の家族
経営が中心の農家は同じような状
況にあると推測される。よって日
本農業の行く末が心配される。

展開
[3]
・筆者の意見を構造化した
上で,この意見に対して
吟味を加えてみよう。
   
・この意見の構造に対して
何か疑問があれば,その
疑問を出してみよう。
・疑問点を指摘
する。
(予想される疑問)
・Q1:d5について,本当に後継者
は不足しているのだろうか。

日曜農業などの例をTVで紹介
していた。

・Q2:日本の農家全体でこうした農
業規模を縮小している農家は
どれくらいあるのだろうか。
危機といえるほど深刻なのだ
ろうか。

・Q3:個人経営の農家が農業経営の
規模を縮小したからといって
日本の食料事情にどれほどの
影響があるだろうか。

 

展開
[4]

・自分の疑問を解決するにはどのようなデータが必要であろうか。 ・必要な資料を調べる。
(例えばの資料)
・D1:日本の農業従事者の年齢構成やいわゆる日曜農業の実践例の数などのデータ
・D2:農地を合併したり,請け負い制度を導入したりしている例やその広がりなどのデータ
・D3:海外からの食料輸入の実績や穀物などの自給率の変化などのデータ

終結

・意見を構造的に分析し,批判的に吟味しよう。           
 
4.まとめと課題

この新聞の「声」の欄に掲載された意見は日々の感想や雑感のようなものが中心である。 それゆえ構造も比較的単純であるし,また精緻さにかけるところもある。意見を説得的な ものにしていこうとすると多くのデータを用意しなければならないことに気づくであろう。 同じようにこの意見を批判するにしても,我が身に置き換えて,他者を納得させるにはど のようなデータが必要かを真剣に考えなければならないであろう。いずれにせよ,データ すなわち事実とその解釈の仕方の重要性を理解することがこの単元の目的であるので,生 徒にとっては有効な教材であると思う。

こうした練習を踏まえたうえで,次により難しい社会的論争問題を取り上げることとした。具体的には「夫婦別姓」の問題を取り上げた。生徒にとっても考える価値のある問題であるし,また一身上の身近な問題でもあると考えるからである。この問題を調べるにあたり,生徒は新聞の縮刷版や新書などの他に,インターネットなどを活用して積極的に取り組んでいた。今後,これを土台にディベートにまでもっていければと考えている。