群馬大学教育学部附属中学校の実践事例
住 所 群馬県前橋市上沖町612番地 郵便番号 371-0052
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総合的な学習を表すタイトル

自ら課題を把握し,学び方を身につけ,主体的,創造的に解決していこうとする生徒の育成

キーワード,分類

生きる力,主体的学習,自己確立,問題解決

総合的な学習に対する考え方

1生徒が学習する学習内容や学習課題の総合性を重視する 
2複数の方法で総合的に課題を追究できる,学習活動の総合性を重視する 
3複雑な事象の問題解決などにさまざまな視点やものの見方や考え方を身につけることができる学習成果の総合性を重視する

総合的な学習の目標(目指すもの)

「総合的な学習の時間」を通じて,教科との関連をはかり,「生きる力」を身につけようとする生徒の育成を目指す

総合的な学習の実践形態

ア.「生きる力」を育む学習過程を工夫する 
   (問題解決的な学習(体験的な活動)を伴う学習過程を設定する,技能学習・内容学習が定着するようにする,発信型の発表の場を設定する) 
イ.自らの興味・関心を生かしたテーマ設定の方法を重視する 
   (現実の身近な生活の中からの問題発見,テーマ設定のための時間の確保と支援の方法を工夫)
ウ.ふるさと「前橋」・郷土「群馬」を基盤とした視点で学習を設定する 
   (身近な地域から徐々に視野を広げてゆく) 
エ.1〜3年で3つの領域(環境・福祉・国際理解)を学習する

推進組織

学級担任を中心に学年担当教師全体でチームを組む

文献

群馬大学教育学部附属中学校研究紀要第45(1998)

コメント(実践から参考になること)

「学習の主体性・創造性」,「学び方」,「他とともに生きてゆこうとする実践的な態度や能力」の3点を重要なポイントとして,環境・福祉・国際理解の3領域の学習を中心として総合的な生徒の能力を高めようとする実践である。地域社会の視点・人間の視点・世界の視点を十分に取り入れ,広く,多角的な視野の育成を実現できるすぐれた実践といえる。


1.カリキュラム開発研究の目標と内容

「生きる力」を主体的に身につけようとする生徒の育成を目指し,新たに「総合学習の時間」を取り入れ,教科との関連を図ったカリキュラム開発を行う。

自ら問題を見つけ,問題解決のための学び方を身につけ,主体的,創造的に問題を解決しようとする生徒の 育成を目指す。

○自分以外の異なる他に対して,偏見を持たず尊重や思いやりの心を持ってかかわり,共に生きていこうとする生徒の育成を目指す。

将来に対する夢や希望,願いを持ち,その実現へ向けて主体的,創造的に取り組もうとする生徒 の育成を目 指す。

2.研究の全体構想

教科・道徳・特別活動・「総合的な学習の時間」の関わりと新しい教育課程の全体構想は図のようになる。

「教科」・「道徳」・「特別活動」という現行の教育課程から,「教科」・「道徳」・「特別活動」・「総合的な学習の時間」へと変更し,特に,「総合的な学習の時間」では,生きる力を育むために,問題解決的な学習を重視していく。また,社会の変化に主体的に対応していくために,教科・道徳・特別活動で得た知識や技能の総合化を目指す。そのため,「総合的な学習の時間」との関わりから,教科道徳・特別活動の基礎的・基本的な内容を明らかにし,学習内容の厳選を図る。さらに,教科・道徳・特別活動,「総合的な学習の時間」を通して,生徒一人一人に成就感・達成感を味わわせるようにする。

3.生きる力を育む学習過程

T 課題把握
U 計画立案
V 情報収集
W 追究
X 確認
Y まとめ
4.総合的な学習の時間の考え方

3つの学び方

生徒とともに学ぶ(教師の構え)

学び方を学ぶ(生徒の学習)

友達と学ぶ(学習形態)

3つの場

自ら問題を見つけ,解決に向けて自分で計画を立てたり,必要な情報を取捨選択し活用し たり,相手に自分の考えや意志を伝えたりするなど,学び方やものの見方,考え方を身に付ける場である

学習の成果がこれからの自分の生活に生かせる,自分の望む生き方につながるなど学習を終えて学びがいがあり,学ぶことに成就感や達成感を味わうことのできる場である

現代の変化の激しい社会を生きるために必要とされる総合的なものの見方や考え方,実践 的な態度や能力を身につける場である   

3つの総合性

○学習内容や学習課題の総合性

   総合的対象である学習課題の総合性を生徒が見通して設定することができる

○学習活動の総合性

   学習活動が多様であり,複数の方法で総合的に課題を追究できる

○学習成果の総合性

    課題追究の成果として,さまざまな視点から事象を見たり,考えることで,グローバルなものの見方や考え方を身につけることができる 

以上の3つの「学び方」・「場」・「総合性」から,「総合的な学習の時間」で取り扱う学習の領域を,「環境」・「福祉」・「国際理解」とする。「総合的な学習の時間」の構想は,次のように表される。

5.各学年の領域と,基本的な学習活動過程

第1学年で「環境」,第2学年で「福祉」,第3学年で「国際理解」を扱う。1年生では生徒の身近な「自然」である「環境」にまず目を向け,ついで2年生で身近な「人」に目を向けるために「福祉」,3年生ではさらに視野を広くもって「世界」という観点から「社会」に目を向けて「国際理解」を扱い,自分を中心とした同心円的拡大法の手法を用いて,学年が上がるにつれて領域に広がりを持たせる観点から,各学年で学習する領域を設定している。

また,「情報に接しテーマを設定する段階」,「テーマを追究する段階」,「テーマを追究した結果をまとめる段階」,「テーマを追究した結果を他に働きかけていく段階」に分けている。

さらに,体験的な学習活動を重視する,ふるさと「前橋」・郷土「群馬」を視点とした学習,学級を基本とした学習形態,技能学習と内容学習を交互に行う学習活動過程,の4点を,学習を進める上での基本的な考え方としている。

6.総合的な学習の時間 1年「環境」

「オリエンテーション」1時間 学年集会形式    学年の「総合的な学習の時間」担当

…「総合的な学習の時間」の概要や「環境」学習の目的や学習の流れを知る 

「前提学習」2時間 学級単位の一斉学習 学級担任

…環境に関わる問題に広く関心を持ち,その解決の方策を探ろうとする意欲を高める

「テーマ設定」の段階 2時間 学級単位の一斉学習 学級担任

学級単位によるグループ学習

…身近な環境に関する様々な問題を自己の問題としてとらえるとともに,その問題を解決していくためのテーマを設定する 

「追究計画の立案」4時間 学級単位によるグループ学習 TT学級担任,担当教員

…テーマを追究するために必要な調査内容と体験活動を明らかにし,その実践のための計画を   立案するとともに,調査に必要な技能を身につける

A〜D班15名…「前橋の水と人々のくらし」

E〜H班10名…「前橋の緑と人々のくらし」

I〜L班13名…「前橋の詩と人々のくらし」

※実践の成果
◎「前提学習」では,自然に直接触れるフィールドワークや関係機関への訪問などの学習方法を例として提示したことで,この学習へ主体的に取り組んでいこうとする意欲を喚起することができた。
◎「テーマ設定」では,水・緑・詩のキーワードから連想される言葉を繋ぐイメージマップ作成は,生徒の主体的なテーマ設定に役だった。
◎「追究計画の立案」では,国語・社会・理科の教員がチームを組んで生徒の疑問に答えられる態勢をつくったことはたいへん有効であった。
※実践における課題
○テーマに関連した調査・体験活動における十分な指導体制と,安全への配慮が必要である
○資料の蓄積・外部講師の人選・通信網の整備が不可欠である
○調査方法の画一化や発信方法の未熟さを考え,必要となる能力の習得のための時間の確保が必要である

7.総合的な学習の時間 2年「福祉」

「オリエンテーション」の段階 0.5時間 学年集会形式 学年※の「総合的な学習の時間」担当

…「総合的な学習の時間」の概要を知り,老人福祉や障害者福祉の問題に関心を持つ 

「前提学習」の段階 1.5時間 学級単位による一斉学習 学級担任

…「福祉」に関する基礎的・基本的な知識を身につけ,「福祉」の学習に対する意欲を高める

「テーマの設定」の段階 3時間 学級単位による一斉学習 学級担任

…老人福祉や障害者福祉に関するさまざまな問題を自己の課題として共感的にとらえるととも   に,その課題を追究し解決してゆくためのテーマを設定する 

「追究計画の立案」の段階 3時間 学級単位によるグループ学習 TT学級担任と副担任

…テーマを追究するために必要な活動内容を明らかにし,その実践のための計画を立案する 

「調査・体験活動1」の段階 2時間 グループ学習 学年担当教師

…調査・体験活動による対象との関わりを通して,自ら見いだした問題点を実感するとともに,   対象に対する見方や考え方を深めたり広めたりする 

「調査・体験活動の報告」の段階 1時間 学級単位による一斉学習 学級担任

…調査・体験活動を通して明らかになったことや新しく見いだした課題を整理して振り返り,   今後の学習活動の見通しを持つ 

※実践の成果
◎前提学習やテーマ設定の段階で,高齢者の介護や社会福祉施設等の資料提示を行い,高齢化の急速な進展に伴う諸問題や障害者福祉に関わる諸問題に目を向けさせたことで,自分や家族・社会との関わりの中から生徒一人一人が解決すべき具体的な課題を設定することができた。
◎調査・体験活動は,思いやりや奉仕の心を持つ実践的な態度の育成に役だった。
◎主体的活動により,机上の調べ学習では得られない成就感や達成感を味わうことができた。
◎報告会は自らの視野を広げ,学び方を学ぶために有意義であった。
実践における課題
資料提示の段階で,より多くの視点から考えたり,深く考えさせることができる資料の準備が必要である。
資料の蓄積・通信網の整備が不可欠である。
多岐にわたるテーマを設定・追究させてゆくためには,前橋市内の福祉に関わる関係機関との連絡や協力,地域の人材の活用などを積極的かつ幅広く行ってゆくことが必要不可欠である。

8.総合的な学習の時間 3年「国際理解」

 

「(前提学習)オリエンテーション」の段階 

2時間 学年集会形式
学年の「総合的な学習の時間」担当

学級における一斉学習 学級担任

…「総合的な学習の時間」の概要を知り,「国際理解」の学習に関する意欲を高める 

「テーマの設定」の段階 3時間 学級単位による一斉学習 TT学級担任と副担任

…「前橋に見られる国際化」の視点に立って,自己の取り組むテーマを設定する

「追究計画の立案」の段階 4時間 学級単位によるグループ学習 TT学級担任と副担任

…テーマを追究するために必要な調査内容と体験活動の見通しを明らかにし,その実践のため の計画を立案する

学習の視点1「日本の文化を学び,外国の人々に紹介しよう」  1〜3班  計9名

学習の視点2「外国の文化を学び,外国の人々に伝えてみよう」 1〜15班  計57

学習の視点3「前橋に見られる国際化を見つけてみよう」    1・2班  計7名

学習の視点4「外国の人々にインタビューして,私たちの生活を見直してみよう」1〜4班計11

 
※実践の成果
生徒は,テーマを追究するための計画の立て方,資料の収集の仕方,外部機関との連絡の取り方などの学び方を習得しながら,主体的に学習を進めていこうとする意欲や態度が養われつつある。
外国の人々に積極的に関わっていこうとする意欲や態度が養われつつある。
他の生徒と協力しながら進んで図書室で資料を収集したり,意欲的に外部機関との連絡を取ったりする姿が見られるようになり,学ぶことに成就感や達成感を持つことができるようになってきている。
「国際理解」の学習の視点を,「前橋に見られる国際化を探し,自分で追究したいテーマを考えよう」と示したことは,身近にいる外国の人々と交流するなどの体験学習を生徒が計画し,実践していく上で有効であった。また,ふるさと「前橋」・郷土「群馬」を国際化という観点から見つめることにもつながった。
※実践における課題
「国際理解」の問題を自分に関わる問題として受け止めることが十分ではなかった。新聞記事などを活用し,前橋で起こった「国際理解」の問題を知らせたりするなど,「国際理解」について問題意識を持てるようにする必要がある。
計画通りに学習が進まず,学習が停滞してしまうグループがあった。今後は,計画の再検討 ・資料収集の手順の再確認を行いながら,1時間1時間を有効に活用できるようにする必要がある。
外部機関への連絡が重なるという問題が生じることがあった。学年の各グループで具体的な 計画ができるまで一定の期間を設け,同じ機関に連絡を取るグループを集め,聞く内容を確認した上で,生徒の代表が連絡していくようにする必要がある。

9.これからの課題

問題解決的に課題探究に取り組んだ生徒が,期待される「自立」・「創造」・「共生」という自己の生き方に関わる認識を成果として身につけたと考えられるが,生き方を自覚するという指導のあり方は今後さらに力を入れていく必要がある。また,計画を生徒のレベルでどう具体化するかが課題である。さらに,次の3つがその他の課題として考えられるものである。

「情報に接しテーマを設定する段階」における社会における今日的な課題を生徒が自己の課題としてとらえることができるようにするために有効な支援のあり方を探ること。

「テーマを追究する段階」における,生徒が主体的に体験的な活動を行えるようにするための有効な支援のあり方を探ること。

「総合的な学習の時間」と各教科,選択教科,道徳,特別活動との関連性を明確にすること。