名古屋大学教育学部附属中・高等学校の実践事例
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総合学習を表すタイトル
新教科「総合人間科」
キーワード,分類
中高一貫,学校行事,講演会,文化祭,卒業式,平和学習,生きる力,生命,環境,平和,人権, 性,国際理解,核,食糧
総合学習に対する考え方
・現在の生徒と学校の実態を,「学びからの逃避」「学校・生徒の内なる鎖国化」「自己認識の喪失,あきらめ」ととらえ,「総合人間科」を軸として学校像を再構築する。 
・総合とは合科・統合ではなく,教科の枠を超えた現代の課題を学習すること,ととらえる。 
・新教科「総合人間科」は,現代の課題を学ぶ総合的な学習である。 
・クロスカリキュラム的総合学習ではなく,新しい概念として「脱教科」の教科として創設した。
総合学習の目標(目指すもの)
21世紀に向けての課題を解決していく力と意欲を,未来の主権者になる目の前の生徒につけてやること。平和を目指す力,すなわち生きる力をもった生徒を育てること。 
目指す生徒像
1現代の課題をさまざまな体験を通して自らの問題とし,主体的に学びながら問題解決について表現したり・討論しながら,共に学び合うことができる生徒。
2自分の人生と生き方を社会の在り方と重ね合わせて選択し,未来に向けて自覚的に行動していく力を持った生徒。
総合学習の実践形態
学年テーマ 
中1:生き方を探る1 高1:生命と環境2 
中2:生命と環境1 高2:国際理解と平和2 
中3:国際理解と平和1 高3:生き方を探る2
推進組織
養護教員を含む全教員が担当する。学年担任団を中心に実践する。 
指導教官制として,少人数,個人指導を行う。
文献
名古屋大学教育学部附属中高等学校紀要第43集 
安彦忠彦・名古屋大学教育学部附属中学・高校著『中・高「総合的学習」のカリキュラム開発』,明治図書,1997
コメント(実践から参考になること)
中・高一貫教育の中で,真に総合的な総合学習を新しく創ろうとした意欲的な実践である。従来の教科の枠,学校の枠を取り払って,学校が一体となって新しい時代の学校を創造しようというところに実践の特徴がある。総合的な学習の時間と学校行事とのリンクなど,総合的な学習を展開していく上で避けて通れない問題についての合理的な解答の一つが示された実践だと言える。


T 新教科「総合人間科」の創設

1.総合人間科とはどんな教科か

生命,環境,平和,人権,性,国際理解,核,食糧開発など21世紀に向けての人類的課題を学習する総合学習である。

学校行事と授業の一体化を目指す新しいタイプの教科である。

脱教科,脱教室,脱偏差値を目的とする,従来の教育観を脱却する教科である。

2.「総合人間科」の目指す生徒像

現代の課題をさまざまな体験を通して自らの問題とし,主体的に学びながら問題解決について 表現したり,討論しながら,共に学び合うことができる生徒。

2自分の人生と生き方を社会の在り方と重ね合わせて選択し,未来に向けて自覚的に行動していく 力を持った生徒。

3.「総合人間科」のテーマと実施学年

【生き方】,【生命と環境】,【平和を学ぶ】の3大テーマ

生き方を探る 中1 身近な人との出会い 
人間的な生き方を学ぶ 
職業,進路観の形成
フィールドワーク
3 フィールドワーク
生命と環境 2 環境 エネルギー 食糧 
福祉 生と死 老い 
障害 生命 性
フィールドワーク
高1 フィールドワーク
平和を学ぶ 3 平和 戦争 核 
人権 民族 差別 
国際理解 紛争
広島・大久野島修学旅行(フィールドワーク)
2 沖縄研究旅行(フィールドワーク)
4.教科の壁を乗り越えて

「総合人間科」の実践に当たり,次の3点を全校的に合意した。

1養護教諭を含む全教員が,脱免許の教科として担当しよう。 
2学年テーマに基づき学年担任団を中心とした学年プロジェクトティームを組織し実践に当たろう。
3脱教室であるフィールドワークを実践の核とし,ティームティーチング指導教官制,少人数教育と新しい学習方法を積極的に取り入れよう。

U 新しい学習方法

1.学年会

学年団のティーム・ティーチングとして様々な学習形態が試みられた。

総合人間科の基本方針として1自主的な学習(自己学習力),2学習における共同化(教えるから学び合う),3社会と結びつき地域へ出ていく学習(脱教室),4自治活動への発展を視野にいれた学校文化・学校行事,を設定し学習方法や学習形態の変革を求めた。

3年間の学習形態,学習方法(96〜98年)

 

1年次

2年次

3年次

中 
学 
1 
教師の問題提示 
(講義,映画)
個人の自由研究(夏休み)
グループでの野外学習 
研究発表
個人学習 
(個別訪問聞き取り調査)
フィールドワーク 
(4分野21グループ)
研究発表
個人学習 
(聞き取り調査  同級生 
上級生,友達の両親)
フィールドワーク(個人)
研究発表
中 
学 
2 
統一テーマの個人研究 
グループディスカッション 
フィールドワーク 
(個人,夏休み)
研究発表(個人,グループ)
教師の問題提示(講義)
グループディスカッション 
個人研究 
フィールドワーク 
研究発表 (グループ)
個人学習 
体験学習(学内菜園)
フィールドワーク 
(夏休み―個人 
2学期―グループ)
中 
学 
3 
グループ学習,個人学習 
(映画,読書,聞き取り)
インターネット 
広島研究旅行事前学習 
広島フィールドワーク
グループ学習,個人学習 
(体験学習,聞き取り)
インターネット 
広島学習フィールドワーク 
留学生との交流
一年間の個人研究 
体験学習(グループ)
広島学習フィールドワーク 
留学生との交流
高 
校 
1 
林間学校クラス討議と講義 
個人研究 
指導教官による個別指導と 
グループディスカッション 
フィールドワーク
林間学校クラス討議と講義 
個人研究 
指導教官による個別指導と 
グループディスカッション 
フィールドワーク
林間学校クラス討議と講義 
個人研究 
指導教官による個別指導 
グループディスカッション 
フィールドワーク
高 
校 
2 
TTによるテーマ授業講義 
グループ学習
沖縄研究旅行事前学習 
沖縄問題のディベート 
沖縄フィールドワーク
個人学習 
(個別訪問聞き取り調査)
フィールドワーク 
(4分野21グループ)
研究発表
沖縄プレ研究,発表 
グループ学習 
沖縄研究旅行事前学習 
沖縄問題のディベート 
沖縄フィールドワーク

高 
校 
3 

個人学習と進路系統別の 
グループディスカッション 
フィールドワーク 
スピーチ(自分史と進路)  
自分史
個人学習と進路系統別の 
グループディスカッション 
フィールドワーク 
スピーチ・卒業論文  
(社会と自分の進路)
個人学習と進路系統別の 
グループディスカッション 
学外講師による講義と助言 
スピーチ(未来を語る)  
パネルディスカッション
2.フィールドワーク

中1から高3まで,合計で毎年度250カ所以上に及ぶフィールドワークを行った。

3年間のフィールドワークの形態>

 

1年次

2年次

3年次

中 
学 
1 
学年をテーマ別の4グループ 
に分け,学校行事「野外体験 
学習」として実施
訪問聞き取り調査(個人)
テーマ別21グループで 
フィールドワーク 
テーマ別4グループで 
フィールドワーク
訪問聞き取り調査(2)
上級生(313)
友達の両親 
個人,グループでの 
フィールドワーク
中 
学 
2 
夏休みの個人研究 
90%以上の生徒が工場見学 
やインタビューなどの直接 
体験,フィールドワーク
外部講師による講義と実習 
林間学校での自然観察 
グループ中心での野外学習を学校行事として実施 
(新設)
夏休みに個人での 
フィールドワーク 
グループ中心での野外学習 
を学校行事として実施

中 
学 
3 

戦争体験の聞き取り調査 
広島研究旅行 
グループワーク(5時間)
原爆体験者からの聞き取り
戦争体験の聞き取り調査
広島研究旅行 
グループワーク(5時間)
原爆体験者からの聞き取り 
留学生との交流会
戦争体験の聞き取り調査 
広島研究旅行 
グループワーク(5時間)
原爆体験者からの聞き取り 
留学生との交流会

高 
校 
1 

各自の研究テーマによる 
個人フィールドワーク 
夏休み(自由)
2学期(学校行事)
各自の研究テーマによる 
個人フィールドワーク 
2学期(学校行事)
林間学校,クラス社会見学 
各自の研究テーマによる 
個人フィールドワーク 
夏休み(自由)
2学期(学校行事)

高 
校 
2 

沖縄研究旅行 
タクシーでグループワーク 
(1)
個人テーマとグループテーマ
テーマ授業の自発的調査
(教師と生徒のTT)
沖縄研究旅行 
タクシーでグループワーク
(1)
沖縄研究旅行 
タクシーでグループワーク 
(1)

高 
校 
 3 

フィールドワーク 
大学職場訪問(学年行事として新設)
総合人間科の授業時間内 
卒業生3人の講話
フィールドワーク 
大学職場訪問
(遠足を行事変更)
 卒業生3人の講話
大学訪問は個別(特に日程を 
設けずオープンキャンパスや説明会の情報提供)
学外講師15(大学関係者, 
卒業生,PTAなど)
3.大学で学ぶ

学校が名古屋大学のキャンパスの中にあるので,有効に利用した。大学の講義の聴講,最先端の施設や研究者とのコミュニケート,留学生との交流など。総合人間科を契機として附属高校であることを改めて認識した。

4.インターネット

インターネットを通して情報を収集し新たな課題を発見するだけではなく,他校との意見交換を行った。「グローバルスクールネット」を通して平和教育のプロジェクトを主催し,アメリカ,カナダ,シンガポール,オランダなどの31校と意見交換がなされた。

V 評価の観点

総合人間科の評価の観点として次の4点を設定した。

@  知的関心の形成と問題解決能力

A  体験・コミュニケーション能力

C  創造的表現能力

D  総合的思考力と実践能力

[総合的能力と評価観点表]

総合的能力

中学校評価観点例

高等学校評価観点例

1 知的関心の形成と
問題解決能力
・課題決定力 
・課題追究力 
・課題解決力
(1) 課題に向けての知的関心の形成 
(2) その中から課題を発見する力 
(3) 課題を追究していく意欲 
(自ら調べる力)
(1) 課題を設定し探究していく力 
(2) 創造的に問題解決していくため 
の企画力と問題解決能力
2 体験・コミュニケ
ーション能力
・体験学習への意欲 
・協同,連帯 
・討論,主張 
・相互認識
(1) 様々な人から学ぶ意欲 
(2) 体験への積極的参加態度 
(3) 協同,協調,コミュニケーショ 
ンへの意欲 
(4) 話し合い,討論できる力
(1) ディスカッション 
ディベート 
スピーチ 等の能力 
(2) 積極的な対話力 
討論能力
3 創造的表現能力
・自己表現力 
・発表能力
(1) 多様な表現能力 
(まとめる力と発表能力)
(1) 問題解決へ向けての表現力
4 総合的思考力と実 践能力
・行動力 
・社会的態度 
・自らの生活と関 
わる力
(1) 課題解決の中での感動,困難克 
服,充実感の体験を学校生活に生 
かしていく態度 
(2) 各教科に関わる学力を総合的 
に働かせる意欲
(1) 学んだことを総合的に働かせる力 
(2) 社会への参加,発言等の行動力 
(地域社会への積極的参加) 
(3) 自己と他者を理解し自己実現に向 
けての実行力 
(人生の自覚的選択)