奈良女子大学文学部附属中学校の実践事例 |
住 所 | 奈良市東紀寺町一丁目60番1号 | 郵便番号 | 630-8305 | ||
電 話 | 0742-26-2571 | FAX | 0742-20-3660 | http://www.nara-wu.ac.jp/fuchuko/index-jp.html |
総合的な学習を表すタイトル |
総合教科<奈良学> |
キーワード,分類 |
地域学習,テーマ(課題)探求型学習,フィールドワーク,発表会 |
総合的な学習に対する考え方 |
フィールドワーク(探求・調査活動),レポート等にまとめる活動,発表や提言をする活動などを重要視している。 |
総合的な学習の目標(目指すもの) |
<奈良学>の学習をとおして,「自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する」などの能力,「生きる力」を育む。 |
総合的な学習の実践形態 |
中学3年生の1年間で実施。オリエンテーションの後,生徒自ら相談しながら班編成をおこなう(1班8〜9人)。班ごとに一つのテーマを設定し,それを1年間かけて自主活動(探求学習・フィールドワーク)をおこない,3学期に学習活動の成果をレポートにまとめて発表会を開催している。3〜4班ごとに顧問教師がひとりずつ付く。 |
推進組織 |
国語,社会,工芸,英語の4人の教師が担当 |
文献 |
奈良女子大学文学部附属中学校研究紀要第33集(1992) 奈良女子大学文学部附属中学校研究紀要第36集(1995) 奈良女子大学文学部附属中学校研究紀要第38集(1997) |
コメント(実践から参考になること) |
生徒たちは,奈良学をとおして奈良という郷土を多様な視点で見つめ,その中から課題を発見し,探求するといった地域に根ざした学習活動である。特徴的な点は,机上だけの学習ではなく,実際に課題となる現地を訪問・調査するなどのフィールドワークを重視していることと,「知事・市長への提言」という課題を与え,郷土が抱える現実の問題をどのようにしたらよりよく解決できるのかを考えさせる仕掛けがある。これらによって「学び」が総合化されており,よく練られた素晴らしい実践である。 |
1.中学3年総合教科<奈良学>の学習とは |
班ごとに一つのテーマを設定し,1年間かけてそのテーマを追究する。 |
班内で主たる分野担当者(国語,社会,英語,工芸の各分野−担当教科に基づく)を決めておき,各分野担当者が,それぞれの分野からテーマにアプローチしていく。 |
ただ単に調べて終わりとさせず,追究したテーマが現在置かれている状況について今後どのようにあるべきかという事を考えさせるために,「県知事・市長への提言」をレポートに入れさせる。たとえばテーマを「能」にしたとすると,国語分野担当者は『風姿花伝』や謡曲の国語学的・文学的学習,社会分野担当者は「能」の歴史の学習と現状の調査,工芸分野担当者は能面の作成や芸術性の学習,英語分野担当者は諸外国での「能」の紹介のされ方の調査や自分たちが調査したことの海外への発信(留学生への明,インターネットでの紹介など)などの活動をする。そのうえで,各担当者の調査内容を生徒相互が学習することで,「能」を総合的に学ぶことができ,その上で知事・市長への提言を考えさせることにより,学んだ事柄をより総合的に見ることができるのではないか,と考える。 |
2.オリエンテーションに使用した「奈良学」プリント(抜粋) |
5.レポートの提出と発表の形式
・レポートの形式 |
3.班の編成 |
男女半々で1班8名という枠組みだけを与え,あとは生徒に任せた。1班8名という人数は,実際に活動を始めると動きにくかったり,意志疎通がスムーズにいかなかったりするという難点があり,数としては多い。大体4〜6名程度が適正人数と考えられるが,そうなると今度は30班という数になり,4名の教師で面倒を見るにはいささか多すぎるという問題が出てくる。そこで,少なくともこの年は1クラス5班,全15班でやっていくことにした。 |
4.テーマの決定まで |
班が決定したら,次はテーマを決めねばならない。テーマは「奈良の伝統文化」という枠の中で決めることとした。当然生徒たちが班で相談して決定するのだが,教師4名が活動開始前にチェックをした。その理由は次の諸点である。 |
1他班とテーマが重なった場合に,文献調査や訪問先などが重複し,同じようなレポートが出される可能性が高いので,それを避けるためである。 |
2一ないし二教科の分野で終わらない多教科にわたるテーマを追究させたいと考えたからである。 |
3文献調査だけで終わらないようなテーマ設定をさせたかったからである。文献調査はもちろん大事なことだが,それに優るとも劣らないのが,現地調査や聞き取り調査である。いろんなところへ行き,いろんな人の話を聞くことで,活字だけでは得られないものを得ることができ,また活字で得られた知識に血肉が通うことになる。 |
テーマ決定までにかかった時間は班によってまちまちだが,テーマ決定に丁寧に時間をかける方が,その後の活動がスムーズに進む場合も多いため,あまりせかさないようにした。 |
慎重に2〜3週間かけてテーマを決定した。各班には,担当教師を一人ずつつけた。その班の全体的な面倒を見て,適宜アドバイスをする役割である。しかし担当した班のテーマについて,担当教師はあらゆることを知っているわけではない。自分の教科に関することについては比較的有益なアドバイスができるが,それ以外のことについて質問が出たり,助言が必要な場合は,専門の先生へ聞きに行かせることになる。つまり国語的な事項については国語の教師の,工芸的な事項については工芸の教師の援助を受けるわけである。また,自然科学分野の質問やアドバイスが必要ならば,理科の先生(奈良学には参加していないが)のところへ行くように指示することになる。 |
5.年間計画表(1995年度) |
6.実践事例 |
A組3班 テーマ「ならまち」
■活動経過 テーマの決定については,最初は「奈良の鹿」としていたが,他班と重なるために再度考え直
■レポートの概要 1国語分野 ・わらべ歌の伝承についての考察 ・代表的わらべ歌の紹介 2社会分野 ・奈良町の成立(年表) ・奈良町の家についての特徴(間口が狭くて細長い,格子,煙出し,むしこ窓,あげ床几,箱階
4英語分野…上記各分野の調査内容の英文による紹介 NARAMACHI INTRODUCTION |
5結論 私たちは一年間奈良町について勉強してきて,奈良町の景観や保存の問題の難しさ,複雑さを知りました。市長さんへの提言をまとめるときにも,1つ案を考えるごとに1つ新しい問題が出てくるように思えました。今まで私たちは奈良町の近くに住んでいるにも関わらず,少しも奈良町のことを念頭に置いていず,景観問題も「何か聞いたことある」ぐらいしか知りませんでした。
6奈良市長への提言 奈良町は中途半端に古い家と新しい家が混じり合っているので,奈良町の文化を残すことを前提に,それを改善する方法はないかといろいろ考えてみた。 1.岡山の倉敷や岐阜の高山のように,古い家を集めて土産屋,民宿,美術館,博物館などにしてテーマパークのようなものにしてはどうか。住んでいる人には移動してもらう必要があるが。道は砂利道にして電信柱は地中に埋める。店の看板はのれんにして,電灯も街並みにマッチしたものにする。 上記二つの意見を実行するにあたって,一番重要となってくるのは奈良町の人々が自分たちの町を守っていこうとする意識だと思う。建築博のために建てられた“音声館”や“格子の家”などでもっと活発に行事を行って奈良町の人々に関心を持ってもらえるようにしていくという責任は奈良市にあるのではないだろうか。 ■班員の感想紹介(抜粋) |
この班は最優秀班に選ばれ,3学期終業式当日の総合教科発表会で全校生徒の前で報告した。 |