鳴門教育大学学校教育学部附属中学校の実践事例
住 所 徳島市中吉野町一丁目31番地 郵便番号 770-0804
電 話 088-622-3852 FAX 088-652-0122 http://www.secsch.naruto-u.ac.jp
総合的な学習を表すタイトル
新しい時代に生きる力を育成する教育課程の編成
キーワード,分類
生きる力,未来総合科,意志決定力,生涯学習,基礎学習,領域別学習,領域総合学習
総合的な学習に対する考え方
総合学習の目的は,「生きる力」の育成である。「生きる力」とは,「総合的にとらえる力」,「意志決定力」,「生涯学習の基礎となる力」である。
総合的な学習の目標(目指すもの)
体験や調査的な活動を通して,現代及び未来社会において解決の迫られている諸問題を総合的にとらえ,未来を構想する中で,自己の意志を決定する能力の育成を図り,その過程において,自ら学習していく能力や態度を養う。
総合的な学習の実践形態
国際化・情報化・環境・福祉の視点から自分たちの生活を総合的にとらえるのに役立つ内容を,基礎学習(グランドワーク)・領域別学習(ケーススタディー)・領域総合学習(アドバンストスタディー)という3つの学習区分から学ぶ。
第1学年では,基礎学習と並行して領域別学習を2段階で,
第2学年では,基礎学習と並行して領域別学習と領域総合学習を,
第3学年では,基礎学習と並行して領域総合学習を2段階で,
生徒の発達段階に応じた形で実践できるよう,また,選択教科・必修教科と総合的学習の役割をできるだけ重ねるようにカリキュラム構成されている。
推進組織
教科担任,学級担任,学年部会,研究委員会,大学教官を含む研究推進委員会
文献
鳴門教育大学学校教育学部附属中学校研究紀要(1998)
「未来総合科で生きる力を育てる」(明治図書)
コメント(実践から参考になること)
独自の理論に基づいたカリキュラム構成と,未来総合科の名にふさわしい学習課題を実践的方法によって学習するという,目的の明確な実践例である。以後の研究開発のための,さまざまな視点からのアンケート集計がグラフ化されており,客観的評価に十分たえうる研究である。

1.総合的学習の構想

目標

「生きる力」の育成(生きる力とは,総合的にとらえる力,意志決定力,生涯学習の基礎となる力である。)
体験や調査的な学習を通して,現代及び未来社会において解決の迫られている 諸問題を総合的にとらえ,未来を構想する中で,自己の意志を決定する能力の 育成を図り,その過程において,自ら学習していく能力や態度を養う

内容

「国際化」・「情報化」・「環境」・「社会福祉」の4領域を設定し,3年間で4領域の学習を全ての生徒が履修するようにしている。

 

また,生徒の発達段階や学習内容・学習スキルの系統性から,学習の体系化を図り,総合的学習を基礎学習(グランドワーク)・領域別学習(ケーススタディー)・領域総合学習(アドバンストスタディー)の3つに区分し,次の表のように3年間で積み上げる方式をとっている。

 

第1学年
第2学年
第3学年
基礎学習(G1)

領域別学習(C1・C2)

基礎学習(G2)
領域別学習(C3)
領域総合学習(A1)
基礎学習(G3)

領域総合学習(A2・A3)

カリキュラム編成の視点

総合的学習では,従来の「文化伝達・継承」に,「新しい文化の創造」という視点を加え,生 徒自身に,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,自己の意志を決定し,表現・提案してい く学習過程を経て,「生きる力」を獲得し,新しい文化を創造する根本的な態度や能力を育成し なければならない。教育課程における総合的な学習の位置づけを,表にすると,次のようになる。

2.総合的学習と教科の関連

総合的学習の4領域のうちの1つである「環境」領域と,教科との関連の例は次のようになる。

学習時期 教 科 単 元 名 内 容 対象地域

1学期

2学期
 
 

3学期

理   科
総合的学習
総合的学習
技術・家庭

社   会
技術・家庭

「身近な水を調べよう」
「もし吉野川がなくなったら」
「吉野川と私たちのくらし」
家庭生活「住まいを清潔に
しよう」
地理「EU諸国」
家庭生活「調理実習」
水質検査の方法
レポートの作成
吉野川総合開発の提案
洗剤による水質汚濁

酸性雨による被害
環境に優しい調理

身近な地域
身近な地域
身近な地域
 

特定地域
身近な地域


1学期

2学期

社   会
保健・体育
技術・家庭
総合的学習
地理「近畿地方」
保健「環境の利用と保全」
家庭生活「調理実習」
「水と私たちの生活」
琵琶湖と淀川の汚染と対策
水の役割と安全な水の確保
環境に優しい調理
水環境の近未来への提案
特定地域

身近な地域
身近な地域


3学期 理   科 「自然環境の保全」 水の循環と人間の生活 地球規模

表中太字の総合学習の学習内容と教科の関連を整理し,その効果をあげると,次のようになる。

<事前の学習>

社 会 科 「EU諸国」酸性雨による被害

理   科 「身近な水を調べよう」水質検査の方法

保健体育科 「環境の利用と保全」水の役割と安全な水の確保

技術家庭科 「住まいを清潔にしよう」洗剤による水質汚濁    

「調理実習」環境に優しい調理

<事後の学習> 

理   科 「自然環境の保全」水の循環と人間の生活

<効 果>

1総合的学習での体験・調査活動が,教科の授業で生かされる

2総合的学習が,教科の学習を補充・深化する

3総合的学習によって,教科の学習意味が分かる

 
教科で育成した学習スキルと総合的学習で培ったスキルの活用

未来総合科(総合的学習)の発表会で必要な学習スキルは,

課題把握→資料作成→資料読みとり・分析→発表技法(メディア)→説明する力→聞く力・読む力

となる。

これらの学習スキルを体系化する上でも,

総合的学習の学習指導案(活動プラン)の目標には,必ずスキル目標を併記する

必要がある。

3.領域別学習の単元構成例

平成8・9年度の「社会福祉」領域での単元構成表は次の通りである。

学年 単 元 名 内                容 

時間

C1
1年
私の考えるバリアフ
リーのアイデア(車
いす体験を通して)
車いす体験(乗車体験・介助体験)を通して,学校の中のバ
リア探しをすることにより,公共の施設を障害者も利用できる
ようにするのが当然であるという考え方の大切さに気づく。ま
た,バリアを取り除く手だてについても考えたり,工夫したり
する。


C2
1年
「人にやさしい街づ
くり」について提言
しよう
「人にやさしい街づくり」をテーマに徳島駅周辺の生活環境
について,福祉というフィルターを通して見,市や県の行政側
に自分たちの考えを提言したり,実際に障害のある人や福祉に
携わる人々から意見を聞くことにより,生徒自身の福祉の心を
養ったり,福祉の実践的行動力をつけたりする。


C3
2年
見て・知って・触れ
て感じる社会福祉(私
の考える社会福祉)
自分が興味・関心を持ったボランティア活動に積極的に参加
する。自分たちで考え工夫した作品を通して,いろいろな社会
福祉施設を訪問し,交流を持つ。そういった体験活動を通して
得た,福祉についての自分の意見をまとめて発表する。
10

4.第3学年領域総合学習の単元設定例

ア.  問題解決のために「総合性」が必要とされるもの
イ.  当面の問題解決でなく,「近未来」を視野に入れる必要があるもの
ウ.  二者択一的な判断を有するものではなく,「創造性」が必要なもの
エ.  生徒の「発達特性」を考慮に入れたもの

(平成8・9年度に実践した「徳島独立計画」をもとに単元設定の条件を述べている)

5.学習評価の方法と実際

毎時間授業後の自己評価と,発表会における生徒・教師・専門家による評価を,学習の方法・ 技能,総合的な見方・考え方,未来社会に対する意志決定,学習への意欲・関心の4点から行う。