福岡教育大学教育学部附属福岡中学校の実践事例 |
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総合的な学習を表すタイトル |
豊かな人間性を育む教育課程の創造 ─「生き方」と「学び方」の統合を通して─ |
キーワード,分類 |
「生きる力」「共生」「創造」「生き方学習」「WORLD TIME」「卒業研究」 |
総合的な学習に対する考え方 |
「生きる力」を一層育むために,これまでの間接体験中心から直接体験を,また細切れ的な問題解決活動から一連の継続した問題解決活動を重視。生徒の興味関心・思いや願いを尊重し,生徒の学びが,日常の生活やこれからの生き方に転移できるような学習。 |
総合的な学習の目標(目指すもの) |
これからの21世紀を生きる生徒たちに最も求められる豊かな人間性として,特に,豊かな「生き方」(共生)と豊かな「学び方」(創造)ができる資質や能力を重視し,それらを一層育むために,新たな領域として総合学習を設定。 |
総合的な学習の実践形態 |
推進組織 |
文献 |
福岡教育大学教育学部附属福岡中学校研究紀要,研究開発実施報告書(ともに1998年度) |
コメント(実践から参考になること) |
5年以上の実践をふまえ,課題設定や計画が具体的である。総合学習を3つのタイプに分けることにより,多様なアプローチや深化を可能にしている。また時間割への組み入れ方にも工夫がみられる(「紀要P17」参照)。 |
3つのタイプの総合学習の特徴 |
生き方学習 |
WORLD TIME |
卒業研究 |
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実施学年 | 全学年 | 全学年(合同) | 第3学年 |
年間実施単位時間 | 70(3年は35) | 35 | 35 |
主な活動形態 | グループ,学級 | 個人,異学年・同学年グループ | 個人,学年グループ |
主な指導・支援者 | 学年担当教師 | 講座担当教師 | 全教師 |
体験活動場所の決定者 | 教師と生徒 | 生徒 | 生徒 |
体験活動場所への引率 | 原則として必ず 教師が引率する |
特に引率は行わないが,連絡が必要な場所は事前に
教師が連絡を取っておく。 |
1.「生き方学習」 |
《ねらい》 |
自然や文化,社会や人々との共生をめざした豊かな生き方の育成。 . |
《内容》 |
現代的な教育課題の対応として,5主題を3年間の中で設定。認識と行動の統合を図り生きてはたらく力とする。 |
実施時期 | 主 題 | 小 主 題 | 内容 |
1年前期 1年後期 2年前期 2年後期 3年前期 |
「仲間」 「福祉」 「環境」 「伝統文化」 「国際理解」 |
「仲間の輪を広げよう」 「お年寄りの住みよい社会をつくろう」 「環境のために私たちができること」 「伝統ある博多の町を再発見しよう」 「アジアの一員として」 |
身近な同世代との共生 異世代との共生 身の回りの環境問題 自国の文化の再発見 アジアとの共生 |
※各主題とも35時間配当,3年後期がないのは「卒業研究」のため |
《特色》 |
(1) 特に生徒に身につけさせたい力を考えるうえで,3つの段階を設定。 |
・事象の変化や様子を多面的にとらえ,自分の問題としてとらえる力→問題を把握する段階 | ||
・自然や文化,社会や人々とともに生きる道を考える力→問題解決の方法を探る段階 | ||
・自分たちにもできることを計画し,解決に向けて行動する力→問題解決に向けて実践する段階 |
↓ |
各段階におけるおもな体験活動を具体的に計画 |
(2) 体験活動の後に,学習成果の共有化や交流を図る場を設定し,ものの見方や考え方を深める「学びあい」を成立させる。 |
(3) 体験活動と道徳の時間を意図的に近いところに配置し,体験活動と道徳の連携を図る。 |
↓ |
活動の意味を補充,深化,統合させる |
(4) 週○単位時間のように均等に割り当てるのではなく,ある一定期間集中的に取り組む短期集中型が原則。 |
↓ |
生徒の意識・意欲の持続性,体験活動(特に校外における)の時間の確保 |
2.「WORLD TIME」 |
《ねらい》 |
生涯学習の視点に立って,21世紀を生き抜くために重要となってくる探究力や創造力などの伸長をめざした豊かな学び方の育成。 |
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《内容》 |
開設講座…10講座 |
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1「文学に親しもう」 |
(国語科) | |
2「福岡の町を再発見しよう」 | (社会科) | ||
3「数学の世界を広げよう」 | (数学科) | ||
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4「自然科学のおもしろさを探求しよう」 |
(理科) | |
5「諸外国に目を向けよう」 | (英語科) | ||
6「音の世界を拓こう」 | (音楽科) | ||
7「工芸に親しもう」 | (美術科) | ||
8「スポーツを楽しもう」 | (保健体育科) | ||
9「生活に役立つものをつくろう」 | (技術・家庭科) | ||
10「くらしの中の秘密を探ろう」 | (技術・家庭科) |
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《特色》 |
(1) 異学年合同の取り組みを生かした活動 → 互いに手本や刺激になる |
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(2) 保護者の多様なスタイルでの参加や外部人材の活用 | ||
・できるだけ多くの保護者の参加を期待し,5つの参加のスタイルを設定 | ||
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ア 生徒とともに活動に参加し,その成果を発表する |
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イ 制作を伴う講座に参加し,作品をつくる |
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ウ 自分なりにテーマを設定し,レポートを提出する |
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エ 自分の時間があるときに参加し,感想をまとめる |
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オ 時間があるときに限り参加する |
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→生徒にとって,保護者がよき指導・助言者になったり,保護者の「学び方」がよいモデになったりしている | |
・保護者を通してテーマ別に具体的な協力依頼を行う。 | ||
例;講座1…小説家などにお知り合いがおられる方,推理小説に詳しい方 |
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講座2…コンピュータなどでマップづくりができる方,福岡の歴史に詳しい方 |
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・大学教務課留学生係と連携をとりながら,留学生を招聘(特に講座5) | ||
・公的な機関と連携し,資料提供や講師をお願いする。 | ||
(3) 指導計画・評価計画表を活用した指導・評価の充実 | ||
・各講座において,「WORLD TIME」の総括目標の4観点における講座のねらいを設定。 | ||
・評価については,観点別に評価基準と評価方法を明らかにしている。 | ||
(4) 各講座の特色を出した指導の工夫 | ||
・TTによる指導の工夫や,講座の手引きの効果的な活用など |
3.「卒業研究」 |
《ねらい》 |
中学校3年間のすべての学習や趣味特技・部活動などを振り返らせ,それらの中からさらに学びたいことを深めさせるとともに,これからの自分の生き方を探らせる。 |
《内容》 |
(1) テーマ決定 |
これからの生き方につながるテーマを考えさせ,解決の見通しを図るために,学級担任を中心に相談の時間を設定。 |
(2) 探究活動 |
専門的な内容については,学校の全教職員,保護者,専門家や地域の人材を積極的に活用(人材の発掘,人材バンクの作成)→生徒に紹介 |
活動の節目ごとに自己評価カードを用意し,生徒の現段階の状況を教師が把握 |
(3) まとめ・論文執筆 |
調査研究型は400字詰め原稿用紙20枚以上,作品制作型および練習獲得型には10枚以上と,軽重をつける。 |
希望者にはワープロ,パソコンを使用させる |
(4) 発表 |
学級発表会で全員に発表の場を確保し,優れた活動については,学年全体や学校全体で披露する場を設定する。 |
保護者や招待したい方へ案内状を出す。 |
公的なものへの応募を勧める。 |
※「卒業研究」の具体例 |
1教科の学習をさらに探究しようとするタイプ |
例;「リサイクルと衣服製作」不要な布で作った服のファッションショーを開く |
2「生・自分たちにもできることを計画し,解決に向けて行動する力→問題解決に向けて実践する段階き方」学習をさらに探究しようとするタイプ |
例;「手話で交流しよう」耳の不自由な人に歌を届けよう |
3「WORLD TIME」をさらに探究しようとするタイプ |
例;「ゴルフ入門」なぜゴルフは紳士のスポーツと呼ばれるのか |
4将来の職業へのつながりを求めて取り組もうとするタイプ |
例;「裁判を身近に感じとろう」裁判所に働く女性の目を通して |
5自分の趣味や特技をさらに伸ばそうとするタイプ |
例;「パステル画を描こう」パステルのよさを生かして |
6自分の夢や関心事を追い求めようとするタイプ |
例;「人間はなぜ飛べたか」飛行機とヘリコプターの比較 |
《特色》 |
・「生き方学習」「WORLD TIME」を通して得た知識や経験を駆使・結合させることにより,3つのタイプの総合学習の統合を図る,完全自由研究。 |
学習の手引き,支援となる「卒業研究ノート」の作成 |
1年生からの段階的指導 |
例;「生き方学習」「WORLD TIME」関係の資料や個々の記録カード等を学年用ロッ カーに保管し,いつでも利用できるようにする。 |