酸性雨調査プロジェクトと環境教育

 

                          広島大学附属福山中・高等学校

                          広島県福山市春日町五丁目14番1号

                              平  賀  博  之

                          hiraga@fukuyama.hiroshima-u.ac.jp

1 広島大学附属福山中・高等学校の環境教育

 広島大学附属福山中・高等学校(以下 当校)は,自由・自主の伝統的校風の中で、生徒の個性を尊重し、学力を伸ばし、人権感覚を持って自らの進路を主体的に切り拓いてゆく生徒の育成を教育方針として,創立以来教育実践を続けてきました。1962年度より中・高6カ年一貫教育を実施し,教育研究の面でも先導的な試行を重ねてきています。

当校の位置する福山市は,製鉄所などを有する工業都市です。当校は工業地帯や交通量の多い国道2号線の北に位置し,また西には国道182号線,北には山陽自動車道が通っています。かつて高度経済成長の時代には公害問題が発生し,その状況の改善に多くの努力がおこなわれました。工場では大気汚染物質を極力減らすように厳重な管理が行われ,光化学スモッグ注意報の発令日数などから見ると,かなり改善されています。

図1.山陽道沿いの松がれ

一方,図1の写真は山陽自動車道の沿線に見られる光景ですが,多くの松が枯れ死している様子が目に付きます。広島県は全国で、松がれの被害にあった松林の面積が最も広い県です。中国地方を中心に全国に蔓延する松枯れは、これまで松枯れの主な原因と考えられていた「松食い虫」による被害と言うよりも、実は大気汚染やそれが雨、霧や露にとけた「酸性雨・霧・露」や大気汚染そのものの影響の方が大きいことが研究者から指摘されています。このような状況のもと,当校の生徒は環境問題に,きわめて強い関心を持っています。1) 

当校の理科では1991年度からカリキュラムの中で環境教育に取り組み,「環境に対する豊かな感受性や見識を持つ人づくり」2) を目指しています。具体的には,

 1通常の授業の単元の中での学習に環境問題を積極的に取り入れる。

 2授業の中でおこなわれる課題学習や探究活動のテーマとして環境問題を取り上げる。

 3大学で環境問題に取り組んでおられる先生の講演学習会を実施する。

などの実践をおこなってきました。3)

また当校では,中学校学習指導要領に沿い生徒の個性の多様化に対応した教育活動が行えるように課題学習の時間を設けています。第2学年で実施している数学と理科から選択する週1時間の理科の課題学習の授業では,1995年度よりテーマとして環境問題を取り上げ,気象および酸性雨の継続的な観測に取り組んでいます。酸性雨調査プロジェクトへも,この授業を選択している生徒が中心となって参加しています。また,同時にアメリカのゴア副大統領の提唱で始まった「環境のための地球観測プログラム(GLOBE)」へも19951996年度の2年間,文部省の研究指定校として参加しました。19971998年度は,「環境データ活用事業(EILNET)」の研究指定校となっています。

 

2.当校の酸性雨調査の取り組み

(1)酸性雨の観測とデータの送信

 図2 気象の観測

広島大学では,1995年度から総合科学部の中根教授,中央廃液処理施設の正藤助教授の指導により,工学部・総合科学部・教育学部など他学部にまたがるプロジェクト「自然環境の蘇生・創造と保護に関する研究」を実施し,その研究の一員として当校も気象観測や酸性雨の研究に取り組みました。この研究にあたり,気象観測装置(自記気温・湿度・気圧計,風向風速計)と酸性雨分取装置(レインゴーランド)を設置しました。広島大学の附属中学校(翠,東雲,三原,福山の4地区)のそれぞれで生徒が共通の項目について観測を行い,データを広島大学情報ネットワークシステム(HINET)を利用して交換しました。当校ではこの観測を継続する形で,100校プロジェクトの酸性雨調査へと発展していきました。

酸性雨を含めた気象の観測(図2)は,中学2年生の課題学習(理科)を選択した生徒が,3〜4名のグループを作り,1週間交代でおこなっています。昼休み(12:50から)になると,担当の生徒はデータをアメリカのGLOBEのサーバに送ります。雨が降った次の日には、屋上に設置してあるレインゴーランドのところへ行って観測(図3)を行い、酸性雨調査ホームページへデータを送信しています。これらの観測は,基本的に生徒にまかせた形でおこなっています。データ送信や技術的なアドバイスなどは,理科の教員9名で援助しています。

              図3 酸性雨の観測

気象観測や酸性雨の観測を継続していくことは地道な作業であり,努力を要することだと思います。私の経験では,このような観測結果は記録紙や数値データとして手元に山積みになっていくだけで終わることが多く,そうなるとやがて生徒の意欲も失われかねません。しかし今回のプロジェクトで,測定の結果をインターネットのホームページから世界に発信することができるという意義づけにより、生徒の活動は生き生きとしたものになったと感じています。

まず,自分たちのデータが,公開されていると言うことに対する責任感が育ったように思います。観測をうっかり忘れる子はいても,さぼる子は皆無でした。また,同じような観測を,全国の仲間がおこなっているという連帯感も育ちつつあるように思います。たとえば雨が降るたびに,インターネットの端末に全国の雨の様子を楽しみに見に来る生徒も出てきました。特に,観測のデータと一緒に入力してある観測者のコメントを楽しみにしています。福山は冬の時期雨が少ないので,なかなか観測のチャンスがなかったのですが,雨が降ったらみんなに自分たちのデータを見てもらうんだと,張り切る生徒もいました。

 

(2)課題学習理科の授業

 19951996年度の課題学習(理科)は,次のような年間計画にしたがっておこないました。

 

(1)環境学習へのプロローグ(2時間)

    課題学習の概要説明,意識調査

    大学の先生の講演(総合科学部 中根教授)

(2)基本的な技能の習得  (15時間)

    コンピュータを利用したコミュニケーション能力の育成

    (電子メールによる交流)

    雨の酸性度(pH)の測定と気象観測

    インターネットを利用した情報発信・情報交換・情報収集

(3)課題研究       (15時間)

    レポートの作成

    発表・討議

(4)環境学習のエピローグ (2時間)

 

 

図4 生徒の目標の発信

コンピュータを利用して文章を作成したり,インターネットで情報を見たりする   のははじめてという生徒がほとんどですが,1学期中にはほぼ全員の生徒がコンピュータやキーボードの操作ができるようになりました。全員の必修項目として指導した内容は,コンピュータの電源投入から切断までの操作と,WWWブラウザーの使い方(特にGLOBEや酸性雨調査ホームページへの接続の仕方とデータ送信の方法),電子メールの作成方法などです。インターネットの利用は情報の双方向性を生かし,データを発信したりコミュニケーション手段として利用することに重点を置き,情報を集めるだけの道具にならないように意識して指導しました。

実際に実施した授業の内容は年度によって多少異なりますが,1995年度の授業では,生徒が環境に対する決意や思いをまとめ,簡単なイラストを添えて当校のホームページの中で公開しました。(図4)このページを見ていただいた大学の先生や中学校の先生などから,あたたかい励ましのメールや,酸性雨調査参加校以外の学校からのメールも何通かいただきました。新しいメールが来ていないか覗いたり,メールに返事を書いたり,そうした交流を何よりの楽しみにしている生徒もいます。もちろん観測を続ける励みにもなっていたように思います。

 

(3)こどもエコクラブ活動コンテスト

課題学習理科の授業の後半は,環境問題をテーマにした課題研究をおこなう予定でしたが,1995年度は時間的に困難になり実施しませんでした。冬休みに入る前の授業で,当校も参加している「こどもエコクラブ(環境庁主催)」がおこなっている活動コンテストの作品募集がきていることを連絡したところ,有志5名の生徒が冬休み中に実験をおこない,その結果をまとめて応募してみたいと申し出てきました。生徒たちは図書館などで大気や環境についての書籍を探し,実験の方法について調べ,すべて自発的に以下のような実験をおこないました。

 ・酢で花に落書きをするとどうなるか。

 ・自動車の排気管にソックスをかぶせて比較する実験(図5b)

 ・輪ゴムを伸ばした状態で空気中に放置して変化を調べる実験(図5c)

などです。自動車の排気ガスを調べる実験では,理科の教員の自動車を利用しましたが,私のディーゼルエンジンの排気ガスのpHがガソリン車にくらべてかなり低くなり,またソックスをかぶせるとすぐに真っ黒になるほど黒煙の量も多いという結果が出て,あとで「環境の授業をする先生が,こんなに大気を汚す自動車に乗っていたらいけんね。」と言われてしまいました。

     (a)          (b)       (c)

    図5 大気や環境に関する実験

 活動コンテストの締め切りは1月中旬でしたが,年が明けてからは日曜日にも学校へ登校して作業をするといった熱の入れようで,和気あいあいとした雰囲気で作業をしました。

残念ながら当校の作品「STOP THE 酸性雨」は,全国フェスティバルでの発表団体には選ばれませんでしたが,横浜市のランドマークホールでおこなわれたフェスティバルの会場でパネル展示されました。さらにこの結果が認められ,1996年6月に広島市でおこなわれた広島県の「環境の日県民大会」の会場で,活動の成果を発表することになりました。発表は生徒の希望から,普通のスライド上映ではなくコンピュータの画面を映しておこなおうということになり,HTML言語を使ったプレゼンテーション画面を作成しました。シナリオ作りや写真を集める作業など,すべて生徒が中心となっておこない,教員は技   術的な援助だけにとどめました。発表にはGLOBEのホームページなど,インターネ   ットのデータや画像なども利用することにしました。生徒たちは,普段からデータの送信などでインターネットを利用しており,WWWで見た画像の中から印象に残っていたものなどを選び出して使っていました。また,画像の中に文字を入れたいということで,このあたりは教員の助けをかりながら作業をしました。当日は,堂々とした態度で発表をおこない,その様子の一部はテレビのローカル番組でも紹介されました。また,当校のホームページに発表の内容を掲載しています。また1996年8月には,福山市の「こどもエコクラブ環境教室」でも活動の様子を紹介する機会を与えられ,酸性雨調査やGLOBEの観測の様子を報告しました。

 

(4)福山の酸性雨を考える

当校での酸性雨の観測は,1995年6月から開始しました。まず生徒を驚かせたのは,そのpHの値の低さでした。pHが4程度の雨がしばしば降っており,時には4を切ることもあります。市販されている炭酸水(カクテル用の砂糖を含まないもの)のpHは5を越えることから考えると,雨が酸性になる原因は大気中の二酸化炭素だけではなく,何らかの酸性物質が混ざり込んでいることが容易に予想できます。それもかなり強い酸が混入していると考えられそうです。

当校の校舎は20年以上も前に建てられたものですが,生徒といっしょに校内を探すとコンクリートから垂れ下がった小さなつららのようなものをいくつか見つけることができました。これらも,雨が酸性になっているために起こった現象だろうと,生徒たちも想像しています。きれいな雨では溶けることのないコンクリートも,pHが低い雨には溶けやすくなり,このようなつららをつくったのでしょう。

  図6 池の水の観測

当校が参加しているGLOBEプログラムの観測の中には,池の水の温度とpHの観測という項目があります。観測当番の生徒は,週に1回学校近くの農業用のため池へ行って観測をしています。酸性雨の観測と池の水の観測をおこなっているうちに,生徒たちはそれぞれのpHの値が大きく違うことに疑問を持つようになりました。空から降ってくる雨はpHが4.04.5程度のであるのにも関わらず,池の水のpHは多少の変動はありますが,ほぼ中性の7.0付近を示すことが多いのです。ヨーロッパや北アメリカの湖の中には,酸性雨の影響で池の水が酸性になって,魚が住めなくなっているところがあると聞いています。

 生徒たちとこの池の様子を調べてみました。池に川は流れ込んでおらず,まわりの住宅地から,道路脇の溝をつたわって雨水が流れ込んでいました。また,流れ込む水をたどってみると,雨水だけでなく家庭やカソリンスタンドなどからの排水も流れ込んでいるようです。流れ込む水のpHはほとんど中性でpH7.0付近のものばかりでした。そうした水が流れ込むところでは,白い泡ができていることもあり,洗剤が溶けているのかもしれません。琵琶湖では,夏にカナダモなどの藻が繁殖しているそうですが,この池の場合も1995年の秋には,水面の4分の3程度を埋め尽くすほどにホテイアオイが大発生しました。

 酸性雨によって湖の水が酸性になるのも困りますが,この池のように洗剤などの影響で中性になっているのであれば,それもまた恐ろしいと感じています。

 

       (a)                (b)

              図7 雨のpH

1996年度の課題学習(選択理科)の授業では,生徒たちが,福山の酸性雨の様子を分析しました。まず,右の図7の()は,956月から97年3月までに観測した雨のpHの1回の降雨の平均値を季節ごとに並べたものです。pHの値は,3.37.1にちらばり,平均は4.7になっています。夏から秋の時期にpHの低い雨の降る回数が多いようにも見えますが,散らばりが大きいため,このグラフから何か特徴を読みとることは難しいようです。()は,横軸に降水量をとり縦軸にpHの平均値をとっています。降水量が少ないときには,pHの値が広い範囲に散らばっていますが,降水量が多いときには,散らばりが少なくなる傾向があるようです。

図8 初期降雨のpH

 

では,なぜ降水量が少ないときにはpHの値が広い範囲に散らばってしまうのでしょうか。その原因を当校の生徒たちは次のように考えています。雨のpHを下げる酸性の物質は煙突や自動車などから大気の中へ放出され,大気中を漂っているものが多いでしょう。そうすると上空から降ってくる雨は,はじめの頃の雨ほどたくさんの酸性物質を吸収して地表に落ちてくることになります。それに対して,雨のpHをあげるアルカリ性の物質もあるようです。その代表として考えているのは,グランドにまく石灰ですが,これらはほこりのような固形の物質として,レインゴーランドに少しずつたまり,雨が降ったときに雨に溶けていっしょにカップの中に入ってしまうようです。長期間雨が降らなかったときは,たくさんのほこりを溶かし,特に測定値としては導電率が高くなります。

図8は,10mm以上の降雨があったと(初期降雨のpH)と(平均のpH)の差を縦軸に,月(季節)を横軸にとったものです。縦軸で0より下にあるものは,平均のpHより初期降雨の方がpHが低かったことを示します。この図から見ると,縦軸で0より低い値を示す雨は,3月〜7月に集中しており,11月〜2月にはすべての雨で初期降雨のpHが平均より高くなっています。この季節による変化は,季節風の向きが関係しているのかもしれません。当校のグランドは,レインゴーランドの位置から見て西側にあるので,西から風が吹くときには,石灰分の影響が強く出るのではないかと考えています。

1998年には,レインゴーランドの台数を増やし,校内の色々な場所に設置して,本当にグランドの石灰が関係しているのか調べてみることにしています。

もう一点,生徒が直感的に気づいた内容に,元々の雲の汚れ具合の違いがあるのではないかという問題があります。これは,台風の時の雨が極端にきれいな(pHが5.5〜6程度で導電率もきわめて低い)ことに驚いた生徒が積極的に考えてみました。図7の()のグラフの降水量40〜50mmのあたりを見ると,pHが4.14.3のグループと,pHが4.95.1のグループに分かれているように見えます。これは,蜘蛛の通ってきた地域の大気がよごれていたか,きれいであったかの違いを表しているのではないかと言うのです。台風の場合は南の海上で発生して太平洋上を移動してくるので,雲を汚すような場所を通っていないため,雨も当然きれいです。しかし,中国や日本など人間が生活する土地の上空でできた雲は,相当汚れているのではないでしょうか。ひまわりの写真を見て雲がどのようなところを通ってきたのか調べた生徒もありました。

どちらにしても,これからもっと観測データを増やしていくことで,もっとはっきりした結果が出てくるのではないかと考えています。

 

(5)日本の酸性雨を考える

福山の酸性雨のデータの特徴をおおまかにつかんだ上で,1997年度の課題学習(選択理科)の授業では,生徒たちが,全国の酸性雨の様子を分析しました。10の観測グループが,それぞれ参加校を分割して受け持ち,学校ごとに分析することにしました。具体的にはインターネットで参加校のデータを読み出し,それを表計算ソフトをつかって分析するのですが,「月ごとのpHの平均を求める」,「降水量とpHの関係をグラフにする」の2つは必ずすることにしました。そして,こうして分析した結果から気づいたことを,授業でみんなに発表しました。

まず,全国の雨のpHが明らかになりました。生徒は,日本全国にこのようなpHの雨が降っていることを,もっと多くの人に知ってもらいたいと感想を述べています。特に,福山を含む瀬戸内海沿岸のpHがおおむね低いところが多くなっていることに対し,残念がっていましたが,瀬戸内地方は雨が少ないのでpHが低くなっているのではないかと意見を述べる生徒もいました。また,データには参加校ごとの表情があると言った生徒もいます。沖縄の美里高校のデータはpHの値が平均でも6を越えるほど大きく,中性に近いきれいな雨が降っています。小豆島の土庄中学校ではpHの平均7程度で参加校の中で最も高くなっていますが,導電率の数値が高く,酸性の雨をアルカリ性の物質が中和しているのではないかと考えました。中学生には内容的に難しいところもありデータの科学的な分析としては十分なことはできていませんが,生徒たちが事実を知り,考えるきっかけにはなったのではないかと感じています。

 

3.環境教育におけるインターネットの利用

 環境問題に関して「Think Globally, Act Localy」というスローガンがあります。これは60年代にウォード(Ward, B.)とデュポス(Dubos, R.)という環境研究者が作った言葉だといわれています。グローバルな視点を持って環境教育を進める必要のある今,環境教育の場にインターネットのような情報ネットワークを導入することはきわめて意義深いものと考えられます。当校も参加しているGLOBEプログラムでは,生徒同士の交流を援助するためのシステムが設けられています。当校では,これらを有効に活用することに大きな意義があるものと感じて,生徒にさまざまな「交流」をおこなわせることを試みてきました。特に酸性雨の観測をしているという経験をいかし,酸性雨の話題も通して世界のこどもたちと交流することを目指しています。

酸性雨調査プロジェクトのサーバでも,観測のデータと一緒に観測者のコメントが入力してありますが,何が書いてあるか楽しみにしている生徒がたくさんいます。こうしたことが,人と人のつながりを作っていくきっかけになるのではないでしょうか。

 図9 GLOBE Japanの掲示板での交流

1996年度に課題学習(選択理科)の授業を受けた生徒の一人は,フィンランドから「学校の周辺の池のpHが低くて驚いています。そちらの様子はいかがですか。」と言う内容の電子メールが来たのがきっかけとなって,返事を書きました。日本の歌のテープを送ったり,環境問題の話題だけでなく文化や生活について,さまざま内容で交流をしました。こうした活動がやがて,国際理解や世界的な環境問題に対応する姿勢を育むものと期待しています。

GLOBEの日本センターである東京学芸大学が作成しているGLOBE Japanホームページには,生徒が自由に読み書きできる掲示板が設置されています。この中でも生徒の交流が盛んになっています。特に1997年からGLOBEの観測に雨のpHの項目が追加され,掲示板の話題には酸性雨の観測のことが目立っています。(図9)

4 明日の環境教育を考える

 「世界を視野に入れる」あるいは「世界と手を携える」ことは,地球環境の問題を考える上では,なくてはならない視点です。これまでは教員の多大な熱意と実践力を必要とした他の学校や海外との交流が,インターネットという画像や音声も扱えるマルチメディア環境が利用可能になったことで,誰でも気軽にできる時代になってきています。インターネットを利用した環境教育のプロジェクトでは,観測データを参加校で共有し,自分のまわりからだんだんと範囲を広げて環境の問題を考えることが可能となります。さらに意見を交換したりその他さまざまな交流を通して,環境問題を解決するための実践力を身につけることができると考えられます。こうした意味で,インターネットを利用することで,環境教育は大きな転換点を迎えたといえるでしょう。

Think Globally, Act Localy」の”Think Globally”の部分において,酸性雨調査プロジェクトは格好の教材を提供してくれています。自分たちの観測が他の観測者のデータとともにサーバの上で閲覧できること,そして,それらを自由に加工してさまざまな分析が自由にできること。そうした考え方に基づいて,生徒に地球全体を1つのシステムとしてとらえる機会を与えることができます。

酸性雨プロジェクト参加校には,”Act Localy”を実行しておられる学校も多いことと思います。当校でも,ゴミの分別を生徒の美化委員会が中心となっておこなって,瓶・缶類や古紙の再資源化に取り組んでいます。しかし,実際には再生紙の価格は新しい紙より高く,現時点でのリサイクルの難しさも,生徒たちは知っています。「自分たちがやっているような小さなことでは,環境をよくすることはできないのではないか。」と悲観的になっている生徒もいます。

 海外との交流を通して,自分たちだけでなく多くの仲間が環境問題を考えているという連帯感が芽生え,それがこのような生徒の”力”になっているように感じています。環境問題について考えているのは自分たちだけではない。世界中にたくさんの仲間がいる。言葉や生活習慣は違っても,考えていることは同じだという思いこそ,これからの環境教育で最も重要なポイントであると感じます。

酸性雨調査プロジェクトが今後さらに発展することを祈りつつ,本文を閉じたいと思います。

最後になりましたが,酸性雨調査プロジェクトのためにご尽力いただいた多くのみなさまに,深くお礼申し上げます。

 

 

 

<引用・参考文献>

1)山下 雅文,山田 雅明:広島大学附属福山中・高等学校研究紀要,Vol.34p611994

2)文部省:環境教育指導資料(中学校・高等学校編)平成3年6月 p.6

3)長澤 武他:「中学校理科課題学習における環境教育について」,

         広島大学附属福山中・高等学校研究紀要,Vol.37pp.23351997