3.酸性雨調査プロジェクトのデータペースが持つ教育的な意味
このプロジェクトを進めていく過程で、特に化学関係の先生方から、生徒の観測の精度の問題提起があり、信頼性に欠けるデータの蓄積は意味がないのではという質問を受けた。
この点については、プロジェクトの企画段階から、酸性雨の研究者からも指摘があり、事務局では、次のような考え方をとりたいと考えて現在に至っています。
 酸性雨のデータを蓄積したデータベースは、すでにいくつか存在します。専門的な研究者によって運営されているものもあります。酸性雨調査プロジェクトのデータベースは、このような酸性雨を研究するためのデータベースとは、違った教育的な価値を持っていると考えられます。
 大きな特徴の1つは、蓄積されたデータ1つ1つの背景に、雨が降る毎に観測をしている生徒や先生の姿があるということです。登録されたデータとともに、観測者の言葉を登録するようになっているのは、生徒や先生の姿を全国の仲間に、はっきり示すことを意図したものです。インターネットを教育に利用する場合、単に情報を眺めているだけでは、大きなメリットがありません。自分が観測し 、データを送信して、データベースに関わりをもつことで、教育は2倍にも3倍にもなります。データの信頼性は大切なことですが、少し視点を変えた教育を期待しているわけです。
 もう1つの特徴は、自分たちのデータが広く世界に公開されるということで、観測に責任を持って当たらなければという気持ちになれることです。このような活動は、観測をきちんと行うという、観測に対する姿勢を養うことになります。これまでの学校の中だけの観測活動では、とうてい得られなかった教育効果が期待できるものと考えています。
 このような教育的価値を持ったデータベースと、専門家によって運営されているデータ
ベースを併用することによって、新しい教育活動の設計が出来ることになります。教育課程の改訂に向けての作業のなかで、学校教育の中に総合学習の導入が提案されています。しかし、総合学習のねらいや内容、授業の方法については、はっきりしたものが確立しているとはいえない状況です。環境学習が総合学習の中心的テーマになりそうな現状を見ると、このプロジェクトの経験は非常に意味のあるものといえます。