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index.9.jpg (2291 バイト)   巻 頭 言

広島大学附属福山中・高等学校

校長 西 村 清 巳

 広島大学附属福山中・高等学校には、たくさんの植物があります。万葉植物園などの万葉植物には、それぞれ万葉歌碑をつけています。また、キャンパス内には自然林も残っています。これらは、直接的には、理科の自然観察や、古典の野外学習などに利用していますが、日常的には、ゆとりや情操教育の大事な教材になってもいます。
 このたび、これらの活用方法をもう一歩深め、さらに広がりをもたせるために、これまでの活動をまとめて、一冊の植物図鑑を作ることにしました。
 植物に親しむ方法には、その特性や機能、自然と植物の関係を調べる方法と、人と植物とのつき合いの歴史をひもとくという方法があると思います。このたびは、この両面を視野に入れながらも、「楽しく植物と触れ合う」ということに重きをおいて編集しました。万葉集にうたわれている植物を取り上げて、万葉人たちが植物とどのようにかかわり、触れ合っていたのだろうかという観点から、植物を見つめてみようとしました。
 万葉集を読むと、万葉人たちが植物とどのようなつき合いをしていたか、よくわかります。食用、薬用、染料、衣料、建築材など、多岐にわたっています。そのいくつかは、今日も続いているものもあります。しかし、万葉人と現代人とでは、その基本的態度が違います。万葉人にとって、植物の多くは、生活の必需品であったと思われます。だから、植物を大事にしましたし、ともに生きるための思いやりがあったと思います。自然に対する思いやりの心は、万葉人に学ぶことができます。
 この植物図鑑は、自然に親しみ、自然をよく知るためのものとして作ったのであって、決して植物を万葉人のように利用しようということを奨励しているのではありません。むしろ、自然の知られざる機能を知ってもらい、自然を大事にするきっかけになることを望んでいます。
 人は、他人の名前を知るところからコミュニケーションがはじまります。人と植物も、名前を知り、性質を知ることによってコミュニケーションがはじまると思います。金子みすずは、「私は、人の知っている草の名前は知りません、でも人の知らない草の名前を知っています、それは私が名前をつけたから」という意味の詩を書いています。これが観察の原点だと思います。ここから、植物とのコミュニケーションがはじまるのです。そして、植物を大事にする心をはぐくみ、自然の奥深くに分け入っていくのだと思います。

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