V 研究の経過と成果

1 GLOBEプログラムの教育課程への位置づけ
(1) 観測体制
第2学年でおこなっている週に1時間の枠で実施している課題学習の中の、理科の授業を選択している生徒(平成7年度28名,平成8年度36名)が、観測を行ってきた。生徒は,1グループ3〜4人で観測グループを作り、1週間交代で観測をしている。
観測時間は昼休みを利用しており,気象の定時観測は日本時間の13時(GMT4時)におこなっている。
昼休み(12:50から)になると,観測グループの生徒は百葉箱へ行き,気温と降水量の測定をおこなう。当校ではどちらも自記記録計を使用しているので,そのチャート紙からデータを読みとる。その後,地学準備室に用意されている,雲の観測チャートを利用して,雲の観測をおこなう。
地表水の観測は,原則として火曜日の放課後,観測グループの生徒が,学校南側徒歩約5分のところにある,農業用のため池でおこなっている。水難事故防止の観点から,必ず理科の教員が1名引率して行っている。会議等で引率が困難な場合などは,別の曜日に移して観測している。池は,1年を通じて比較的水量が安定しており,水の汲み上げも安全におこなうことができている。
生物観測は,観測地点として設定した学校北側の自然林で実施した。落葉の時期には,この自然林の樹木を,校庭側より観察し,写真に記録した。
当校は生徒の通学範囲が広いため,日曜日や学校の長期休業中は,雲の観測はおこなっていない。気温と降水量などに関しては,長期休業中も1週間に1回当番の生徒が登校し,記録用紙の交換と1週間分のデータのとりまとめをおこなっている。
これらの観測は,基本的に生徒が自主的におこなっている。データ送信や技術的なアドバイスなど,理科の教員9名で援助している。
データの送信は,その日の観測データがそろったところで,コンピュータ室または地学準備室のコンピュータから,インターネットを使ってアメリカのサーバにデータを送っている。同時に,別のコンピュータに作られたデータベースソフトの中に,その日のデータを入力している。
日本のGLOBE本部へのデータ送信は,このデータベースを利用し,1週間分をまとめて教員が電子メールを使って送信している。
普段の生活で,自然の中で何かを発見したり,感じたりする経験が少ない生徒に,自然と関わる実体験を与え,自然を感じさせることが,環境教育の第1歩であると考えている。GLOBEプログラムは,まさにこの観点から自然をとらえることができる取り組みであると感じている。

(2) 課題学習理科「環境学習」におけるGLOBEプログラム
GLOBEプログラムに直接参加して観測をおこなっているのは,この「環境学習」を選択している生徒たちであるが,授業の方は週1時間という時間数から,多くの内容を扱うことは出来ない。授業の前半は毎時間コンピュータ教室を利用して実施し,生徒が電子メールを利用したり,インターネットでの情報発信ができるようになることに重点をおいて指導した。
これまで,コンピュータの利用は,測定機器としての利用やグラフや統計処理をするための道具としての利用や,シュミレーションなどの画像提示装置としての利用などが中心であった。しかし,パソコンがインターネットに接続された現在,情報を収集したり発信したりする,通信機器としての利用の可能性が大きく広がった。環境問題解決のための指針として,「視野はグローバルに,実行は足もとから。」といわれている。世界に視野を向けることのできる生徒を育てるためには,世界中から資料を収集し,世界中の人々と意見交換のできるインターネットは,格好の教材を与えてくれている。この授業でもその可能性を最大限に生かそうとした。
コンピュータを利用して文章を作成したり,インターネットで情報を見たりするのははじめてという生徒がほとんどであるが,1学期中には,ほぼ全員の生徒が,コンピュータやキーボードの操作ができるようになった。
WWWサーバ上のデータは,HTML言語で記述されるが,これは,簡単ないくつかのタグをマスターすれば,生徒でも書くことができる。環境教育の授業では,生徒が環境に対する決意や思いをまとめ,簡単なイラストを添えて,当校のホームページの中で公開した。
授業の後半は,環境問題をテーマにした課題研究をおこなった。簡単な実験をおこなって身の回りの環境を調べたり,ゴミ処理について研究するなど,各自でテーマを設定して研究した。
実験の例としては,
・酢で花に落書きをするとどうなるか。
・強酸性・弱酸性・中性・アルカリ性の水を菊にかける実験
・自動車の排気ガスを水に通してpHを調べる実験
・自動車の排気管にソックスをかぶせる実験
・輪ゴムを伸ばした状態で空気中に放置して変化を調べる実験
などがある。これらの実験は教師から資料を与えたものではなく,生徒が個々に本などで調べておこなったものである。
自動車の排気ガスを調べる実験では,理科の教員の自動車を利用したが,この授業を担当してる教員のディーゼルエンジンの自動車の排気ガスは、pHもガソリン車にくらべてかなり低くなり,またソックスをかぶせるとすぐに真っ黒になるほど煤煙の量も多いという結果が出て,あとで生徒から「環境の授業をする先生が,こんなに大気を汚す自動車に乗っていたらいけんね。」と言われてしまった。

(3) GLOBE Mailなどの利用
GLOBEサーバにあるGLOBEMailのコーナーでは,参加校同士でメールによる交流がおこなわれている。これまでに,アメリカをはじめ,オーストラリアやノルウェー,チェコなどからメールが届き,生徒はつたない英語ではあるが精一杯の返事を送り返した。さらに返事のメールが届けば,大変な喜びようであった。
当校では,GLOBE Mailに関しては,有志の生徒による取り組みとした。メールに英語で返事を書くことは,中学生にとっては時間を要することであり,授業内でおこなうことは困難であると判断した。生徒の中には,2〜3日おきにやって来て,GLOBE Mailのコーナーをチェックしている生徒もいた。
ただ残念なことに,こちらからメールを書いた場合も,来たメールに返事を書いた場合も,返事の来る割合は7〜8通に1通程度と低い。それだけに,返事が来たときの喜びが大きかったのかもしれないが,もう少し効率的にメールのやりとりができるシステムが望まれる所である。
GLOBE Mailのコーナーとは別に,日本のGLOBEプログラム参加校の加茂中学校との間で,電子メールによる交流をおこなうことができた。クラブ活動や身の回りの生活の話題で盛り上がったようで,GLOBEに参加している生徒の,楽しみの一つとなっていた。
GLOBE JAPANサーバの掲示板のコーナーも,生徒たちの興味を引いた活動となった。

(4) こどもエコクラブとGLOBEプログラム
こどもエコクラブは,環境庁が主催する全国の環境問題に興味を持つこどもたちのグループが参加している組織で,こどもたちの活動をサポートしてくれている。
当校でも,こどもエコクラブが発足した1995年度より,中学校2年生の選択の課題学習「環境学習」を履修している28名,1996年度は36名の生徒が,「広島大学附属福山中学校エコクラブ」という名前で参加した。
こどもエコクラブでは,日頃の活動を多くの仲間に紹介するために活動コンテストがおこなわれ,成果発表会が開催される。当校のこどもエコクラブも応募しようということになり,有志の生徒5名(男子2名,女子3名)が中心となって,活動の成果を模造紙一枚にまとめた。内容は,当校のGLOBEプログラムや酸性雨調査プロジェクトの活動の様子と,生徒たちが課題研究としておこなった,空気の汚れや酸性雨の影響に関する実験について,写真や図を交えてまとめた。締め切りが1月中旬だったが,年が明けてからは日曜日にも学校へ登校して作業をするといった熱の入れようで,和気あいあいとした雰囲気で作業をした。
残念ながら当校の作品「STOP THE 酸性雨」は,全国フェスティバルでの発表団体には選ばれなかったが,横浜市のランドマークホールでおこなわれたフェスティバルの会場でパネル展示された。
この結果が認められ,1996年6月8日に広島市でおこなわれた広島県の「環境の日県民大会」の会場で,活動の成果を発表することになった。発表は生徒の希望から,普通のスライド上映ではなく,コンピュータの画面を映しておこなおうということになり,HTML言語を使ったプレゼンテーション画面を作成した。シナリオ作りや写真を集める作業など,すべて生徒が中心となっておこない,教員は技術的な援助だけにとどめた。発表にはGLOBEのホームページなど,インターネットのデータや画像なども利用することにした。生徒たちは,普段からデータの送信などでインターネットを利用しており,WWWで見た画像の中から印象に残っていたものなどを選び出して使っていた。また,画像の中に文字を入れたいということで,このあたりは教員の助けを借りながら作業をした。当日は,堂々とした態度で発表をおこない,その様子の一部はテレビのローカル番組でも紹介された。
また1997年8月には,福山市の「こどもエコクラブ環境教室」でも活動の様子を紹介する機会を与えられ,GLOBEや酸性雨の観測の様子を報告した。