- チェルノブイリ原発事故以降,世界的にみても原子力発電の安全性がよく議論されているが,我が国の高等学校の理科教育においては,放射線に関する学習は総合理科を除いては,物理TBの「電子と原子」,物理Uの「原子と原子核」の分野で取り扱われているにすぎない。物理TBおよび物理Uが選択である現状を考えると,放射線に対する安全性の基準を全ての生徒が持つことが不十分であるということはいうまでもない。そこで,今回は総合理科において自然放射線の測定を取り上げ,放射線に対する総合的な見方や考え方を養うことにした。そしてさらに原子力の利用とその安全性や核廃棄物処理の問題にまで話題を広げることにより,放射線と環境について科学的な立場から総合的に考えさせた。
1.授業と実践内容
(1)授業計画
科目 総合理科
対象生徒 高校1年
時間数 15時間
単元名 「課題研究」自然環境についての調査−自然放射線の測定−
第1章 はじめに(1時間) 放射線についての意識調査
第2章 原子の構造と同位体
第3章 核分裂の原理(1時間) α,β,γ崩壊について
第4章 放射線とその性質(3時間) α線,β線,ガンマ線の性質を実験を通して学習
第5章 自然放射線の測定と考察(3時間) 校内の自然放射線の測定
第6章 原子力の利用とその安全性の問題(3時間)
(2)放射線の測定と考察の授業展開過程
指導案
(3)「はかるくん」を用いた福山から瀬戸田町間の自然放射線量の測定結果
- 普通乗用車で時速50km/hの速度で移動しながら測定した。トンネルの中,コンクリート建造物付近では放射線量が多く,大きな橋の上では極端に少ないことがわかる。
(4)「はかるくん」を用いた校内の自然放射線量測定結果
- 以下の表の放射線量は20班の測定値の平均値である。校舎内では,校舎外より放射線量が多く,コンクリートの壁からの放射線が主に計測されていると思われる。校舎外では花崗岩の表面からの放射線量が最も多くなっている。車の中や木造住宅の中では放射線量が少ないが,これは金属や建築材料などによって自然放射線が遮蔽されているためと思われる。焼却炉内が多いのは,コンクリートや灰の成分であるカリウムからの自然放射線と思われる。
(5)GMカウンターを用いたカリウム化合物からの自然放射線の計測結果
- 測定にばらつきがあるが,下表のように,バックグラウンドに対して1.3から2倍の放射線量の増加がみられた。
班 KCl NaCl バックグラウンド
1 56cpm 46cpm 33cpm
2 72 28 33
3 66 34 51
4 60 45 42
5 64 50 32
6 65 33 48
- ※資料の塩化カリウムなどは500gの薬品をポリ容器に入れたまま,GMカウンターにできるだけ近づけて1分間測定した。
2.生徒の感想
- ・放射線測定器「はかるくん」により手軽に校内の自然放射線を測ることができた。最初は車内や化学教室内で高い値が出るのではないかと予想していたが、実際は花岡岩や校舎の壁近くで比較的高い自然放射線を計測できた。放射線は室内でも中央と窓際で値が違った。校舎の1階,2階,3階でも変化がみられた。値が0の場所は1つもなく,校内の至る所で自然放射線が測定された結果には驚いた。先生の計測結果では,トンネル内で値が高く、橋の上では著しく値が低かった。橋の上では地上からの放射線が海水によって遮断されるからだと分かり納得した。身の回りにはたくさんの放射線があり、我々は気付かぬうちに被曝しているのだということが少し怖くなったが、人間が1年間に浴びてよい値からすれば非常に小さな値だと分かり安心した。日常生活につながりの感じられる授業であった。
- ・原子力発電、放射線、放射能・・・・・・・・・。ニュースなどで聞くのはたいてい悪いことが起こったとき。そのためか,なにか恐ろしいイメージだったし,あまり身近なものではなかった。しかし,授業でいろいろ学ぶうちに,身の回りというか自然界にもたくさん放射線を出す物質があることが分かった。それに紙一枚で遮蔽できるものがあるのも知った。実際,目の前に放射線を出す物質を置き測定した。いいことか悪いことかは分からないが,放射線が怖く不気味なものでなくなった。なんとなくだけど原子力発電のことも分かったし,イメージだけで考えていた放射線のことも詳しく習ったし,ためになったと思います。