広島大学附属福山中学校総合的な学習「LIFE」の実践

日常生活の中に数学を見つける

1.講座名 日常生活の中に数学を見つける
2.対  象 中学2年生 38名(男子20名、女子18名)
3.学習の目標 数学とは一見無関係に思われる事柄の中にも数学があることを生徒に示し、それの学習を通して、日常生活の中に数学的なものを見つけようとする態度と力を育成する。

      2.主題

様々な文学作家の特徴を調べよう

学習内容

様々な作家の文章の中に現れる名詞や動詞の数、句読点の数、文章の長さや文章の止め方な   どを統計的に調べることによって、それぞれの作家の特徴を明らかにしようとする学習であ   る。


  1. 導入(1時間)

    5人の作家(森 鴎外、野坂 昭如、赤川 次郎、氷室 冴子、夏目 漱石)による1〜〓の文章 を生徒に示し(資料1)、5種類に分類させる。全員の生徒が分類できていた。そこで「なぜう まく分類できたのか」「作家によって文章のなにが違うのか」生徒に問いかけ、分類の元になっ た文章中の要素をできるだけ多く上げさせた。

    生徒があげた要素は次のようなものである。

    会話文の数、漢字の量、カタカナの量、句読点の数、文章の数、文章の長さ、名詞や動詞    の数、文章の終わり方・・・など

    そこでこのような量を測定することによって、作家の特徴を把握できるのではないかと生徒に 問いかけた。


  1. 活動(4時間)

    *次のような量を測定して、作家の特徴を調べることにした。

    1句点、読点、漢字、名詞、会話文、カタカナ

    1つの作品から2000字を選んで、その2000字中にそれぞれがいくつ含まれている    かを調査する。

    2文の長さ

    1つの作品から40個の文を選び、その長さを字数で測る。その際、漢字はひらがなに直    す。そして文の長さの平均値を算出する。

    3文の終わり方

    「過去止め」・・・であった。というような過去止めで結ばれている。

    「現在止め」・・・である。というような現在止めで結ばれている。

    「不定止め」命令形、体言止めのような不定形で結ばれている。

    文の長さの調査で選んだ40個の文について統計をとる。

    4名詞や動詞の長さ

    名詞や動詞をひらがなに直してその長さを調べる。それぞれの作品から、名詞、動詞を

    40個選んで調べ、その長さの平均値を算出する。


*図書室に行って自分が好きな作家の作品を1つ選び調査する。

*数名単位で1つの班を作る。

*調査した後、それぞれの班で整理し結果を発表する。発表の方法(どの様なグラフにすれば

分かりやすいか等)も班で考える。


  1. 調査結果
作  者 作  品 句点 読点 漢字 名詞 会話 カタカナ 文の長さ 過去止め 現在止め 不定止め 名詞長さ 動詞長さ
星  新一

司馬遼太郎
山本 有三
できそこない博物館
妄想銀行
項羽と劉邦
真実一路
セロ弾きのゴーシュ
羅生門
坊ちゃん
人間失格
チョッちゃんがいくわ
窓際のトットちゃん
零式戦闘機
草の実

ジョン万次郎漂流記
島で暮らす
呪いの指紋
天と地と
結婚ぎらい
福翁自伝
野ばら
クレヨン王国の銀行
白鳥異伝
宮本武蔵
創竜伝
突撃する女
四万十川
空中モグラあらわる
奇厳城
十五少年漂流記
赤毛のアン
86
95
69
41
8
136
48
60
95
165
42
40
62
43
65
83
69
56
79
45
120
32
22
67
59
56
41
53
123
53
67
71
47
54
84
45
68
36
39
28
75
64
65
53
38
97
41
96
24
48
76
56
113
63
37
54
69
70
66
39
438
283
557
297
167
479
615
475
418
274
367
220
328
595
533
325
473
520
523
776
282
299
649
644
568
512
606
354
414
311
163
91
152
104
76
193
157
161
143
113
247
91
107
59
137
82
146
194
124
262
106
129
308

201
198
123
192
181
193
1
20
7
17
42
5
0
1
20
9
0
1
19
0
8
41
4
8
2
11
37
17
1
13
16
16
0
18
8
12
192
84
0
9
106
0
25
30
163
85
123
0
39
5
179
12
0
77
26
42
33
2
0
2
168
79
127
125
153
217

36.7

29.8

35.6

29.4

19.0

48.3

42.3

71.5

13.9

56.8

70.5

32.1

24.0

44.3
7
20
0
36
8
18
4
10
0
40
34
31
10
26
18
29
11
12
28
18
9
15
19
12
8
21
2
15
9
18
11
17
34
1
1
16
33
30
0
0
6
8
6
10
18
10
19
17
11
28
5
11
16
16
27
18
35
18
20
16
8
3
6
3
3
0
3
7
5
0
0
1
24
4
4
1
10
0
1
0
11
14
5
12
5
1
1
7
14
2

3.8

3.3

3.8

3.3

3.6

4.8

3.8

5.8

4.3

3.7

10.6

3.3

3.7

4.7

4.1

3.8

4.3

4.2

3.0

4.3

3.8

3.5

4.8

3.3

4.3

4.5

2.8

5.4

5.1

2.3
宮沢 賢治
芥川龍之介
夏目 漱石
太宰 治
黒柳 朝
黒柳 徹子
吉村 昭
壺井 栄
川端 康成
井伏 鱒二
灰谷健次郎
江戸川乱歩
海音寺潮五
田辺 聖子
福沢 諭吉
長野まゆみ
福永 冷三
荻原 規子
吉川 英治
田中 芳樹
井上ひさし
笹山 久三
今泉 吉晴
モーリスルブラン
ウエルヌ
モンゴメリ
ワイルダー 大きな森の小さな家 202 49 283 278 1 103 44.8

30.2

39.6

34.1


21.3

25.0

75.2

28.1

45.0

34.8

54.8

48.5

41.6

52.5

52.3
28 6 6
3.5

3.1

4.0

11.0

3.6

4.2

4.3

4.4

3.7

6.3

3.6

5.3

4.8

4.2

3.5

3.0

4.2

3.7

3.7

11.0

4.6

3.0

4.3

3.6

3.5

5.4

4.7

3.8

4.2

3.0

3.9

4.4
平均値

71.2

61.2
407.
1
147.
7

11.0

70.8

42.3

16.8

14.2

5.2

4.5

4.1


  1. わかったこと

    *宮沢賢治

    短文で句点が少なく、ひらがなを好む。名詞をあまり使わず漢字も少ない。会話文が多い。 山本有三、壺井栄 と似ている。

    *吉川英治

    漢文調で文章が長い。名詞が多い。

    吉村昭 と似ている。

    *黒柳徹子

    句点が多く読点が少ない。文章は長い。

    *カタカナを多く使うのは、星新一や井上ひさしらの新しい時代の作家である。



反省と課題

普段の授業では全く扱わない分野への数学の応用であったため、多くの生徒は興味を持って活 動していた。ただ文法の知識が不十分であるため、文の止め方についての調査は難しかった。調 査項目を漢字の量や文章の長さなどの単純な物にしぼったほうが良かった。また一人の作家につ いてもっと多くの作品(数個程度)を調査すれば、それぞれの作家の特徴がより明確になったの ではないかと思う。




参考文献

安本美典、本田正久 共著、「現代数学レクチャーズ 因子分析法」、培風館