広島大学附属福山中学校総合的な学習「LIFE」の実践

音楽で伝えよう

1. テーマ名 音楽で伝えよう
2.対  象 中学3年生47人(男子5人,女子42人)
3.学習のねらい これまでの音楽学習で培った力をもとに,言葉や様々な表現媒体を用いて,各個人の力を発揮 しながら仲間と協力して豊かな表現をつくる能力を育てる。

4.年間指導計画

  学習のねらい 単元名 学習の具体的な内容


 
 
 


 
 
 

 


 
 


 
 

 

○自分たちの力を分析し曲を判断・選択する能
力を高める。
○各個人の力を発揮しな
がら,友達と協力して
音楽づくりをする能力
を高める。
○豊かな自己表現のよさ
への味わいを深める。
「Let's have a concert! 」 ○グループをつくり,自分たちの演奏したい曲を選択する。教師の提示したもの,または自分たちで探してきて表現を工夫する。
・形態(合唱,重奏,合唱奏など)
・楽曲(クラシック ,ポップス,歌謡曲等)
○リハーサルをする。
○ミニコンサートを開く。
○豊かな自己表現をつく
り出すためのレディネ
スを身に付ける。

レディネス

・戦争・平和の知識

 

三部作「平和への
祈り」をつくろう
○戦争・原爆についての正確な知識
を深める。(戦争・原爆に関する
本など)※学級活動での平和教育
との関連
○平和の語り部の方々のお話を伺い
思いを深める。
○3つにグループ分けをする。
(第1グループ)
戦争・原爆の悲劇
(第2グループ)
原爆がもたらしたもの
(第3グループ)
永遠の平和にむかって





○表現への思いを深める ○社会見学旅行(長崎)で原爆の悲惨さや平和への認識を深める。感想・思い・願いを記録に留める。


   学
      期

 


 
 


 
 
 

12

 

○豊かな自己表現をつくり出すためのレディネ
スを身に付ける。

レディネス

・様々な音楽表現
・音楽のつくり方

○豊かな自己表現を表出し高め合う。

○「平和」を訴えた曲を聴いて様々な表現をとらえる。
○いろいろな様子や気持ちを表す効果音の作り方を練習する。
・いろいろな表現媒体を使う
(楽器,身近な物)

○グループごとに表現を追求する。
・文章作成 ・効果音をつくる
・作詞,作曲  ・歌,合唱
○練習・録音・ふり返り・練り上げ





○学習成果の発表により豊かな自己表現のよさを実感する。 ○発表準備
○発表会
○まとめ

5.具体的な学習内容

1.単元名 「Let’s have a concert」(全6時間)
2.学習目標

興味・関心,グループの能力に照らし合わせて選曲し,グループ員の力を生かしながら音楽づくりをすることができる。

イ 

これまでの音楽学習での学び方を生かして豊かな表現を追求することができる。
3.学習の実際
@各グループの選曲について(第1時)

音楽の時間の観察などから,生徒の興味・関心,技能を考慮して,教師が提示した曲は次の曲であった。

合唱: 「未来へ」(同声2部)「白い雲のように」(同声2部)
リコーダーアンサンブル: 「雨にぬれても」「アメージンググレース」「ロンドンデリーの歌」「グリーンスリーブス」
合奏: 「大脱走のマーチ」「ノルウエーの森」「舟歌」(ギターアンサンブル)

それに対して,生徒が選択した曲は次のような曲であった。

Aグループ 5人 「未来予想図2」(女声三部,ピアノ)
Bグループ 8人 「Love Love Love」(女声四部,ピアノ)
Cグループ 4人 「スカーレット」(合唱,ピアノ,鈴,カスタネット)
Dグループ 5人 「チェリー」(ボーカル,リコーダー,ギター,ピアノ)
Eグループ 9人 「TOMORROW」(二部合唱,ピアノ,シロフォン,タンブリン,鈴)
Fグループ 2人 「未来へ」(女声二重唱,ピアノ)
Gグループ 4人 「大脱走のマーチ」(ピアノ,Sリコーダー,Aリコーダー,ドラ
ムセット)
Hグループ 5人 「街」(シンセサイザー,エレキギター,フォークギター,ボーカ
ル,タンブリン)
Iグループ    「トランペット吹きの休日」(リコーダー五重奏)
(Sリコーダー,Aリコーダー,Tリコーダー,Bリコーダー)

教師が提示した曲を選んだグループは2グループであった。他の7グループは,選曲に悩みながらも,自分たちの興味・関心が高くやりたい曲を選んでいる。

曲種を見てみると圧倒的に歌謡曲が多いことがわかる。(7グループ)これは,「コンサート」という響きが歌手のコンサートをイメージしやすかったこと,日頃からCDなどで聴いている歌謡曲をグループで楽しく表現したいことなどが理由のようである。しかし,それらの曲は,教師が提示した曲より難易度の高い曲が多いこともわかる。

さらには,合唱は二重唱から四部合唱まで,合奏はギター,各種の打楽器,リコーダーも4種類と表現媒体がかなり多様化していることがわかる。これは,音楽的な能力の高まりとともに個々の特技を生かした構成を考えていること,また,新たな楽器への挑戦といった意欲の高まりが理由であると思われる。

Aグループでの練習と表現の工夫について(第2時〜第4時)
Aグループ 5人 「未来予想図2」(女声三部,ピアノ)

ピアノのソロ楽譜とボーカル楽譜の調の違う2種類の楽譜をもってきた。ピアノソロの調にボーカルを移調して歌ったため,音程で混乱していたが,楽譜を書き換えて説明をすると何とかつかんだようであった。対旋律が難しいため,1番と2番で対旋律の受け持ちを変えたり,フレーズで区切って響きを確認したりしていた。

また,このグループは,学校の行き帰り,電車の中でも練習をしたということであった。 

○Bグループ 8人 「Love Love Love」(女声四部,ピアノ)

合唱用の楽譜ではソプラノ,アルトの2パートであったが,自分たちで新しくコーラスのパートを加え四部合唱にしていた。それぞれのパート練習を中心に意見交換をしながら活発に活動していた。カセットを持ってきて録音し,ふり返りながらよりよい表現を追求する姿勢がみられた。教室や学年の廊下などで休み時間のたびに歌っていたようである。

○Cグループ 4人 「スカーレット」(合唱,ピアノ,鈴,カスタネット)

自分たちの歌いたい曲を選んだが,高い声域が出にくい生徒もいた。そこで,曲のまとまりと音域を考えて,分担唱をしていた。また,軽快なリズムにのるために,カスタネットと鈴のリズム伴奏を入れていた。

○Dグループ 5人 「チェリー」(ボーカル,リコーダー,ギター,ピアノ)

選曲にはかなり時間がかかってしまった。この曲を歌っているバンドの雰囲気を出すたために,フォークギターに挑戦した女子生徒がいた。(ギターを家にもって帰って練習していた)また,ボーカルだけでなくリコーダーでも旋律を入れたり,曲の雰囲気によってリコーダーもボーカルをしたりしていた。

○Eグループ 9人 「TOMORROW」(二部合唱,ピアノ,シロフォン,タンブリン,鈴) 
原曲よりもゆっくりめのテンポでそろえることに重点をおいていた。ゆっくりでも軽快さを出すために,シロフォンで8分音符のリズムを刻んだり,タンブリン,鈴のリズムを入れたりしていた。二分合唱のバランスには特に気を付けていた。
○Fグループ 2人 「未来へ」(女声二重唱,ピアノ)

一人は主旋律を歌い,一人はピアノを弾きながら対旋律を歌うという形をとっていた。2人グループであるため,練習がしやすいようであった。ピアノは弾き語りであり,やや難しそうであった。

○Gグループ 4人 「大脱走のマーチ」(ピアノ,Sリコーダー,Aリコーダー,ドラムセット)

始めのうちは,ピアノのテンポ,リコーダーのテンポ,ドラムのテンポがそれぞれ違い苦労していた。行進しやすいテンポということで,メトロノームを使った練習を始めてからは,一定のテンポで演奏できるようになってきた。ドラムの音量が大きく,リコーダーとのバランスが悪かったが,打つ場所やミュートの工夫をしてからはよくなってきた。

○Hグループ 5人 「街」(シンセサイザー,エレキギター,フォークギター,ボーカル,タンブリン)
選曲に時間がかかってしまい,全員一緒の練習時間がほとんど取れていなかった。結局放課後,又は家での各自の個人練習が中心になった。ドラムセットを使うことできないため,シンセサイザーのドラムの音を使いリズムを刻むようにした。
エレキギターを用いたため,練習場所の確保も難しかった。
Iグループ 5人 「トランペット吹きの休日」(リコーダー五重奏)(Sリコーダー,Aリコーダー,Tリコーダー,Bリコーダー)

「トランペット吹きの休日」という軽快な曲をリコーダーの5重奏で行ったため,速いフレーズに苦労していた。バスリコーダーは初めて使う楽器のため,姿勢,音の出し方を工夫していた。ゆっくりのテンポを設定したため,軽快さを感じさせるような音の出し方を工夫していた。各旋律の重なり,バランスなどを特に部分練習していた。放課後なども使い,お互いの音を聴き合えるように静かな場所で練習している時もあった。 

Bコンサートについて(第5時〜第6時)

コンサートは2週に分けて行った。(1週間に1回しかないため,準備など入れると1時間では終わらないため)その分,バタバタすることはなかった。発表する生徒たちは,みな緊張していた。聴く生徒たちは,本当に聴き入っていた。みんな,一生懸命につくりあげたという気持ちがあるだけに演奏者と観客の一体感があったのだろうと考える。そのためか,終了後の拍手はどこも盛大なものが送られていた。(詳しくはビデオを観ていただきたい)

Cコンサート終了後の感想より

コンサート終了後に感想を書かせた。いろいろな観点で自由に書かせたが,いくつかにまとめられるので,項目を挙げて示していくことにする。

ア 音楽をつくりあげていく過程についての感想

・自分が他の人の声に合わせられなくてすごく悩んだけど,友達が指摘してくれて自分の所まで歌ってくれたりして,友情の素晴らしさを改めて感じた。パートを代わったり工夫したりすることができた。違うところはちゃんと指摘してくれたし,うまい所はほめてくれた。友達って結構ありがたい!(Aグループ)
・練習時間が少なかったので場所を選ばずどこででも練習した。(教室や廊下等)練習友達同志でやるのは楽しかった。みんなで奏でるハーモニーは日に日に完成度を増していって楽しかった。何回も練習して,「リズムをこうしよう」などみんなで考えを出し合うなどとてもいいグループだった。(Bグループ)
・選曲には時間がかかったけど,みんなで考えて楽しかった。声の出し方から教えてもらいたかった。(Cグループ)
・なかなか合わずに練習は結構大変だったけど,5人で一つの曲をやるという楽しさが加わってとてもおもしろかった。(Dグループ)
・選曲に時間がかかった。下のパートの人たちは何回もメロディーを弾いてもらって練習した。難しいパートや楽器の人のためには,そこだけみんなで取り出して合わせたりした。みんなの協力が素晴らしかった。(Eグループ)
・練習の中でよい所や悪い所を言い合うことで,友達とさらに仲良くなれたと思う。最初はばらばらだったのに,何回も練習して初めて合った時はとても感動しました。朝の練習ができたのもみんながいたからで,すごく楽しかった。(Gグループ)
・いつもCDを聴いている時には気付かなかったが,実際に練習するとドラムやギターの本当の意味がわかった。ギリギリ間に合って恥ずかしかった。早くからしっかり練習をすればよかった。(Hグループ)
・練習中は,「ここはこうした方がいい」と話し合ったり,言い争ったりしたけど,言いたいことを言い合えてスッキリ音楽観がまとまったと思う。(Iグループ)

イ コンサートをしての感想

・緊張して手も足もふるえて練習どうりにはいかなかった。ハモっていない部分もあったけどみんなの温かい視線に感動した。(Aグループ)
・みんなの前で発表するのは緊張したけど,楽しかった。発表時間の数分のためにかなりの練習をしたが,むだになった時間は1秒もなかったと思う。短い時間の中でどれだけ自分たちのおもいを伝えることができるか,とても難しいことだけど,充実していて楽しかった。(Bグループ)
・発表の時かなり緊張した。あまり緊張しなかった。(Cグループ)
・練習ではあまりうまくいかなかったが,発表ではうまくいった。(Dグループ)
・歌っているときとても楽しかった。みんなが真剣に聴いてくれてうれしかった。けど静かすぎて緊張した。歌や音楽は生がやっぱり一番だと思った。(Eグループ)
・コンサートは楽しい。あの緊張感がいいし,友達の発表を聴くのもいい。緊張して声がうまくでなかった。(Fグループ)
・緊張して練習ほどはうまくいかなかった。でも「やりきった!」っていう達成感みたいなものが湧いてきてすごく充実した発表だった。(Gグループ)
・本番は練習通りいかない。難しい。(Hグループ)
・緊張しながらも結構うまく吹くことができた。「よかったよ」と友達に言われた時は少し辛かった練習もやっていて良かったと思った。ビデオを観て,自分の弱々しい音を友達がフォローしてくれているのや時どき音を抑えたりしているのも分かり,協力ができていたと思った。(Iグループ)

ウ この単元についての感想

・すべてのグループが本当にコンサートみたいだった。友達の特技や頑張りが見れてよかった。協力の大切さやみんなが1つになって1つのものを作り上げていくよろこびが味わえてよかった。(Aグループ)
・最初から自分たちで全部作ってやったところに意味があったし,やってよかったと思う。歌うこと,それは,人の心を伝えること。音楽は人の心がよく現れ表れるということを学んだ。すごく心に残った時間だった。おもしろくて楽しかった。またやりたい! また,それぞれのグループの表現に味があってよかった。(Bグループ)
・自分で演奏して人に伝えるのは大変だ!と思った。いろいろなグループのいろいろな曲が聴けてよかった。(Cグループ)
・どのグループの演奏にも感動した。もっと練習の時間を授業で取って欲しかった。授業が少なかったのは残念だったけど,またやってみたい。(Dグループ)
・思ったより楽しかった。みんなの生の音(音楽)が聴けてよかったと思う。みんな楽しそうに音楽をやっていたので,やっぱり音楽の力ってすごいと思った。そういう単元だった。またやりたい!(Eグループ)
・みんなの工夫する面やいろんな音楽の形を見ることができていい。これからもどこかでこんな活動をしてみたいと思う。(Fグループ)
・みんなの演奏に心がこもっていて,聴く方にはとてもその曲のよさが伝わってきた。この単元では,一人ひとりがばらばらに演奏するのではなく,曲の一部を受け持ちながら1つの曲を作り上げていくことの素晴らしさを学びました。音楽は日頃のコミュニケーションが大切だと思った。友達とももっと中がよくなった。(Gグループ)
・この単元は,自分たちで自由にやれてよかった。その分,自分たちで責任をもたなければと実感した。(Hグループ)
・友達との距離が短くなれたように思う。音楽でおもいを人に伝えるのは楽しい!と思った。とてもおもしろく,もう1度やってみたい。
4.成果と課題

本単元の授業を通して次のような成果が得られた。

○ 目標であった,グループ(個人)の能力を生かした選曲,音楽づくりができていた。
○ 生徒は非常に意欲的に取り組み,授業以外にも時間,場所を問わず練習するほど熱中していた。(教室,廊下,通学途中,朝,昼休み,放課後など)
○ 興味・関心が高いため,新しいパートのメロディーを加えたり,楽器に挑戦したりしたりして自分の力を高めていった。
○ コンサートでの緊張感,演奏後の充実感・満足感など,演奏者と聴く生徒の気持ちが一体になっており,演奏後にお互いの表現を賞賛し合うことができた。
○ 友達の新たな面に気付いたり,音楽に真剣に取り組む中で各自の考えを出し合いながらお互いを高め合う姿が見られた。

生徒たちにとって本単元のようなコンサートをする形は初めての体験であった。ほとんどの  生徒が「もう1度したい」「今度はこんな方法でしたい」という感想を書いていた。生徒の興味・関心にあった単元であったと考える。

課題としては次のようなことが考えられる。

○ 十分な活動時間を確保する。
1週間に1時間では活動時間が少なすぎる。もう少し,選曲,表現の工夫をする時間を確保できるようにすることがより豊かな表現,演奏する時の心の余裕,満足感につながっていくと考える。コンサートも2回に分けて行ったが,2時間連続であればもっと盛り上がったのではないか。
○ 音楽の授業との関連を考える。
音楽の授業の中で,いろいろな表現のよさにもっと触れさせ,工夫の仕方(学び方)を数多く経験させることが大切である。
○ 他教科,特別活動との関連を考える。
ナレーション,振り付け・ダンス,英語での歌唱,劇風になど。また,学年,全校生
徒の前での発表会なども大きな達成感や満足感につながると考える。
○ 静かな中でふりかえりながら音楽づくりができる環境整備
今回は音楽教室,演奏室,音楽準備室,楽器倉庫の4ヵ所を使って活動したが,多グループになると音が混ざり合って,音に集中できにくくなった。