新潟大学教育人間科学部附属長岡中学校の実践事例
住 所 新潟県長岡市学校町一丁目1番1号 郵便番号 940-8530
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総合的な学習を表すタイトル
総合的な学習の試行(平成10年度は3年選択Bでの試行)
総合的な学習に対する考え方
・生徒が自分自身で課題を設定し,自分の力で調べたり体験したりして進めていく学習 
・教科の学習からさらに発展させて追究したいこと,最近の社会で問題になっていること,身の回りにある様々な文化など,生徒の興味・関心に応じて課題設定する。 
※これまでの選択Bの時間をより総合的に扱えるようにしたもの。
総合的な学習の目的
中学校において生徒自らが課題を設定し追究する学び(総合的な学習)の場を設定し,その学びの過程を支援することで,必修教科等でみられつつある生徒主体の学びを発展させるとともに,各教科で期待してきた生徒の学びが一人ひとりの生徒に実際にどのように現れるかを考察する。
総合的な学習の実践形態
1 期間 平成10年10月〜12月 全18時間 
2 時間 後期選択Bの時間(水曜日) 3,4限 2時間連続の時間を設定する。 
    16時間(2時間×8回)+発表会(2時間) 
3 担当(数字は班の番号) 
【水曜3限】10人の教官   【水曜4限】 7人の教官 
学び方の支援が3限が中心になると予想されるので,3限の担当者を多くし,3限の担当者を各班の責任者とする。 
4 活動場所 
○ 集合場所    301 302 303 会議室 食堂 
○ 活動場所 
体育館 コンピュータ室 理科室 音楽室 技術室 美術室 被服室 調理室 
市立図書館も使用可能 その他の校外施設については,生徒の希望があれば協議する。 
5 構 想 
ア それぞれの生徒への支援が細かにされるように,3年生後期選択B(国語,社会,数学,理科)をいくつかのグループに分ける。なお,グループ分けはアトランダムとし,教科にはこだわらない。 
イ それぞれのグループに,担当教師が一人ずつつく。基本的には,担当教師は学び方についての支援者として役割を担い,専門的な内容についての対応は担当教師に関係なく生徒のニーズに応じて全教師が行うものとする。 
ウ 生徒は課題設定に関しては,今までの中学校での学びからさらに追究したいこと,あるいは現実社会に見られる諸問題,自分の身の回りに存在する文化などから,自由に設定できるものとする。さらに,課題設定に関しては教科に固執することなく自由に進めることができるものとする。 
エ 生徒には,事前に期間,時数等を説明し,計画的な追究をうながす。また,最終的にグループ内での報告会を開催し,表現方法,手段,機器の活用,意見交換の在り方(聞き手側の関わり方)等にも支援を行えるようにする。 
オ 担当教師は,担当グループ生徒の課題,追究の様子等の記録を取り,学びの様相を検討する。さらに,全体研修の場にその資料を持ち寄り,生徒主体の学びの様相を検討し各教科の研究に生かすように努める。 
カ この時間の評価は担当教師が行う。評価は基本的に記述式とし,生徒の学びの様相から見られた顕著な点を述べることとする。また,この評価は,3年学級担任が要録等の所見記載に活用できるものとする。
文献
新潟大学教育人間科学部附属長岡中学校「総合的な学習の試行」報告会資料(1999)
コメント(実践から参考になること)
1998年度は「総合的な学習の試行」ということで,これまでに行ってきている3年生選択Bをもとに教科の枠を取り払って,生徒の興味・関心からテーマの生み出し,課題の追究の仕方を考えさせ教師は支援していく形を取っている。今後は,基本的には,総合的な活動を総合的な学習へ移行させる形で各学年で実施していくようである。

1.班の実践より
1-1 生徒のテーマと学びの姿
No 氏名

テ ー マ

学 び の 姿

I吉 俳句の創作 左記のテーマに最初から迷いや変更はなかった。だが,意欲が持続せず,途中,居眠りをしたり保健室に逃げ込んだりしていたこともあった。途中,コンピュータで他者の俳句を検索したり俳句に関する本を探したこともあった。発表会ではなかなか味わいのある俳句を発表し,作者である自分の解釈以外の解釈に出会い,満足感を得ていた。
T橋 ローソクづくり テーマがころころ変わり,左記のテーマに確定したのは5回目であった。以後,理科室でいろいろな形や色のローソクづくりに取り組んだ。発表では,作品を見せながら,形を決めたり色をつけたりする方法を紹介していた。
H林 バスケットボールのシュート練習〜決定率の向上に向けて〜 テーマが一定しなかったが,3回目に左記のテーマに確定した。以後,毎回,体育館で練習を重ね,記録を取りつづけた。シュートの位置や種類に分けて,決定率を発表した。
S藤 詩の創作 左記のテーマに確定したのが3回目で,以後,校地内で創作に励んだ。イタリアの詩人の詩にみられるテーマ性に触発されて,自分の内面を見つめた詩作をするようになった。本人なりに表現を工夫しながら,十編以上の作品を作った。
N山 英語の本や新聞を読むこと 図書室で英字新聞を読んだり,中央図書館で英語の本を読んだりした。英語の本は7冊読んだ。単語力が付き,総合の時間はよかった,との発言がみられた。
Y際 環境問題(大気汚染)について調べること 理科の宿題の延長として左記のテーマがとりあえず設定されたが,良い資料が見つかってからは,それを本格的なテーマとして追究するようになった。
U栗 小説の執筆 3班のF林と取り組むことが多かった。インターネットで他の作文を検索したこともあった。発表では小説そのものは発表せず,経過報告くらいに留めておいた。
H野 日本語の文字の歴史と変化 主に中央図書館で日本語の文字の歴史と変化について調べレポートにまとめた。テーマ設定の理由に切実性はあまりないが担当教官が国語担当だということもきっかけの一つと言っていた。K原に「それは総合の趣旨ではないのではないか。」という指摘をうけていた。
   
2.総合の時間を振り返って
2-1 個人研究(自由学習)のよさ
自らの問題意識に根ざす課題を解決する場の保障が目指す生徒像の具現の一端を担うこと
    1班では,課題設定につまずいたり紆余曲折があったりした生徒が多かった。これまでの必修教科の学習の中での個々の問題意識や願い・思いに根ざした総合的な学びの中で埋没したのだろうか,それともそういう学びが十分に保障されていなかったのだろうか。
   しかし,曲がりなりにも,自分のやりたいことを見いだし,それなりのまとめや成果が生まれた生徒の多くは,成就感を味わうことができた。 
2-2 個人研究(自由学習)型の課題
@    学びの共同体としてのお互いのかかわり合い(学び合い)ができにくいこと
   個人追究型であるため,同一の班の中での,あるいは,他の班のメンバーとの学び合いが希薄な生徒を多く感じた。そこで,生徒全員の課題や課題設定の理由や背景を知り合える手だてを工夫することによって,学びの共同体を形成し,その深化・拡充をねらう必要がある。
A    個々のみとりに難しさがあること
   抽出生徒を中心に,その学びの姿を追うのに,活動や学習の最中にこそみとりや聞き取の継続が有効であることが見えてきた。しかし,それが全員を対象にするとなると難しいものがあった。個々の生徒が思い思いの課題・方法・場所で課題解決に向かうため,一人の担当教師が個々の生徒の学びの様相を追ったりみとったりすることが困難なのである。
B    社会的な要請から考えると課題の内容や質が問われること 
   環境問題・人権問題・・・等の社会的な課題とそこからくる中学教育への社会的要請から考えると,個々の生徒の課題の内容や質が問われるだろう。当校における今後の総合的な学習の時間の在り方を,選択教科の在り方とともに,見直したり検討したりする必要があるだろう。
2-3 より有効な分析や評価の手だての開発の必要性
   総合の時間における学びに,必修教科で期待する学びの姿が現れているかどうかを分析することの難しさが見えてきている。5つの営みの具体的な姿をもう少し指標化したり,願いをかけた生徒を抽出生徒にあらかじめ設定し,その生徒に関する情報を複数の目で追って記録に残したりすること等,より有効な分析や評価の手だてを開発していく必要がある。 

まとめ(1〜3班の考察を通して) 

【主体的拡散的な学習が保障された時間における生徒の学びの様相の考察】 
   生徒は主体的に課題を設定し,追究方法や活動方法を選択していた。そのため,個性的で自立的な学びの様相は多方面で見られた。その反面,ほとんどの生徒が個人自由学習となり学びの共同体における人間同志のかかわりを重視した営みには乏しかった。 
【生徒主体の学びと各教科と各教科等で期待する生徒の学びの関連の検討】 
  どの教科のどの内容なのか,どの考え方なのかなど明確に区別することはできないし,質の面でどうなのかという問題もあるが,各教科で期待する生徒の学びは散見できるであろう。これらについては各教科等の視点から分析を加え,各教科等のまとめ及び提言に盛り込んでいきたい。
  
3.平成11年度の総合的な学習の設け方(案)
3-1 基本的なとらえ

総合的な活動を総合的な学習に移行させる形で各学年ごとに実施する。

3年間の総合的な学習の展開(連続)を見据えて,学年段階を観点に実施する。

ゆるやかなテーマのもとで,課題設定,追究方法の構想・体験的探究学習・資料収集・プレゼンテーション等を行うことをねらいとする。その追究過程の中で,自己理解を進め,人間としての在り方を見つめ,社会の変化に対応できるたくましさを培う。

3-2 実施の方法
実施学年

全学年で実施する。完全実施までに3年間の総合的な学習を経験した学年をもてるようにする。

完全実施までは,学年を単位として行う。移行期に評価し,その後の展開を構想する。

内容等

1年

学習設計のもとになる情報収集や体験活動の組み方,3年間の基盤になる部分などを重視したい。

2年

学校行事としての修学旅行が既にテーマに基づいた活動として定着していることから,修学旅行の準備として,1年生での教科等や総合的な学習の基礎の上にそれを広げる。

3年

生徒の手による学習計画に基づく追究ができるようにし,広く学問や社会とのかかわりを深める。

 

想定している内容

1年 「身のまわりでは」身近な地域から出発し,そこで得た課題や問題点を学年内の小集団により追究する。体験的な学習を通した自己理解や進路学習,資料の集め方やまとめ方施設の利用や外部の人との接し方などの態度・知識・技能等に着目する。 
2年 「平和な社会のために」修学旅行を頂点に平和と戦争,人権,都市づくりなど小テーマを順次もしくは選択して追究する。大きなテーマのもとで個人や小集団での課題を設定し,学年全体での発表等で探究内容を共有しあわせて修学旅行を充実したものとする。
3年 「世界と生き方」個人によるテーマ設定を基本とし,同一テーマや同類テーマの場合は分担・協力するなどして広く興味・関心に基づいた追究をし,卒業研究とする。平和学習と並ぶテーマとして,環境・国際化・情報化・地域の文化・学校文化などを奨励する。