滋賀大学教育学部附属中学校の実践事例
住所 滋賀県大津市昭和町10番3号 郵便番号 520-0817
電話 077-527-5255 FAX 077-527-5261 http://www.fc.shiga-u.ac.jp/home/index.htm
総合的な学習を表すタイトル
郷土・環境・国際理解の3領域から成る「学び方を学ぶ」ための「BIWAKO TIME」,人権・福祉ボランティア・性・進路に関する学習など「生き方を学ぶ」ための「HUMAN  TIME」
キーワード,分類
学び方,郷土,環境,国際理解,生き方,人権,福祉ボランティア,性,進路,異学年グループ,外部講師
総合的な学習に対する考え方
・これまでの教科等の学習で身につけてきた学習内容や方法,学習体験を「総合」する。 
・教科等の学習では取り上げにくい学習課題や教科等の枠を超えて存在する課題を「総合」する。 
・学校内や学校外の学習環境や学習材・人材を「総合」する。
総合的な学習の目標(目指すもの)
現代的な課題を対象にし,体験活動を重視して,教科の枠を超えて行う学習で,生徒が課題解決や探究活動主体的・創造的に取り組む態度の育成を図るものである。
総合的な学習の実践形態
「BIWAKO TIME」では異学年の生徒で構成される学習グループで取り組む学習である。 
「HUMAN TIME」は学級を中心として学年集団による展開である。
推進組織
全教員で指導,学校外部の人材と教師のTT(チームティーチング)も積極的に取り入れている。
文献
滋賀大学教育学部附属中学校 研究紀要第40(1997) 
滋賀大学教育学部附属中学校 研究紀要第41(1998) 
「生きる力を育てる総合学習の実践」(1997)
コメント(実践から参考になること)
「BIWAKO TIME」は琵琶湖という題材を単に郷土の学習としてではなく,それを素材にしながら環境や国際,文化やくらしなど学習を幅広くとらえて展開している。 
「HUMAN TIME」では,福祉ボランティア・人権・性・進路などの学習を現地視察やボランティア活動等の体験的な学習を多く取り入れて推進している。 
・学習への興味や動機付けのために,学年別ガイダンスや分野別のオリエンテーションを充実させている。 
・学習のまとめとして,外部講師を招いての分科会別発表会やパネルディスカッションを行っている。

1.滋賀大学教育学部附属中学校の総合学習とは

1.滋賀大附属中が行っている総合学習は,以下のような考え方で進められている。
(ア)これまでの教科等の学習で身につけてきた学習内容や学習方法,及び学習体験を「総合」する学習である。 
・これまでのものの見方や考え方・体験を総合してのぞむ学習 
・教科等の枠の中で,身につけてきた個別の知識,認識を教科等の枠のない学習ステージで組み上げ,より深いものにしていく学習 
(イ)教科等の学習では取リ上げにくい,または,取り上げられない学習課題や学習体験,及び教科等の学習の枠を越えて存在する学習課題や学習体験を「総合」する学習である。 
・環境の問題,郷土がかかえる問題,国際間の問題,高齢者問題,人権に関わる問題,人としての生き方,情報化社会,ボランティアなどの学習課題を取り上げ,それをひとまとまりのカリキュラムとして編成する学習 
・教科等の学習では,とうてい味わうことのできない学習体験を伴う学習 
(ウ)学校内や学校外の学習環境・学習材・人材を「総合」する学習である。 
・教師一人ひとりの力を総合する(チームティーチング及び全教師による学習への支援体制) 
・学習者を総合する(学年の枠をはずした,異学年混成の学習グループによる学習) 
・地域の様々な教育力を総合する(学校外の施設・郷土という生きた学習環境・人材を幅広く活用する学習) 
・学習材としてのメディアを幅広く総合する(学習ツールとしてのメディアを幅広く活用する学習)
2.「総合学習のカリキュラム」

現在,「総合学習」をいわゆる「学校裁量の時間」に実施している。「総合学習」として,(図1)に示すように,前期に「学び方を学ぶ」ことを目的とする「BIWAKO TIME」(以下B・Tと略する)を行い,後期には「生き方を学ぶ」ことを目的とする「HUMAN TIME」(H・Tと略する)を実施している。 

 

1 学 期

2 学 期

3 学 期
総 
合 
学 
習 
 
                             学び方を学ぶ
                             B・T(30時間)              
                                                                              生き方を学ぶ
                                                                              H・T(20〜31時間)     
 
  人  権 福祉・ボランティア 進  路  

(図1)「総合学習」の指導時期と時間数

「BIWAKO TIME」は,全校一斉の時間をとって,また,「HUMAN TIME」は学年ごとにそれぞれの分野でまとまった時間をとって実施している。その時間数は(図2)に示す。「BIWAKO TIME」「HUMAN TIME」は,学習の進み具合等を考慮して,年度当初に予め実施日を決めて行っている。

  B・T H・T 総合学習 
合計
人権 福祉・ボランティア 進路 HT小計
1 年 30 12 31 61
2 年 30 24 54
3 年 30 10 20 50

2.B・Tの実践

1.B・Tのカリキュラム編成の視点

『BIWAKO TIME』については,次の点に留意してそのカリキュラムを編成した。

ア. 1〜3年生の生徒を縦割りにし,学習グループのメンバーの構成員を必ず異学年の者で構成することとする。上級生は,これまでの学習体験をもとにリーダーシップを取る形で,下級生は,「学び」の基本を身につける形でグループ内での役割を担うという点に留意し,学習体験を積み上げる過程(3年間を貫く一連の学習であること)を意識させる。
イ. 全30時間の学習過程を仕組み,学習の最終段階に,学習の成果を発表・交流する「分科会別発表会」と,学んだことをもとにそれぞれの立場から意見を出し合う「パネルディスカッション」行うこととする。
ウ. 「郷土」を学習の素材にしながら,環境問題・国際理解などを幅広く取り上げられるよう, 2領域(「BIWAKO」を見つめる分科会・「BIWAKO」から広げる分科会),3分野(自然と環境・くらしと文化・郷土や世界の課題)で,合計12の分科会を設定する。特に,『GLOBE計画』を学習実践に組み入れることをめざした分科会を開設する。

エ. 学校外部の人材の活用を図る。具体的には,生徒達が課題を決定したり,計画を立てる段階で,分科会毎にゲストアドバイザーを招いたり(グループ交流会),「パネルディスカッション」でのゲストパネリストとして話を聴く機会を設定し,本校教官とのTT(チームティーチング)を行うことにより,学習活動への幅と深まりをねらう。

オ. メディアの効果的な利用を図る。特に,「インターネット」の活用による情報の収集や情報発信に取り組ませる。学習成果を本校ホームページ上に載せていく。
カ. 週5日制を考慮し,休日・夏休みの活用の仕方,外部施設・外部機関の利用の仕方等を学習体験の中で身に付けさせる。
キ. コンピュータ室・図書室・インターネットルームなどの「サテライトルーム」を充実させ,学習活動の広がり・深まりに応えるとともに,利用についての手続きのあり方の指導を行う。
ク. 学習活動のガイド,または足跡を残すものとして,各学年共通の一冊の「ワークブック」を作成する。
ケ. 個の学習に対する興味・関心に応えられるよう,全職員をもって支援にあたる。
調査・研究活動を深化していくために,教師引率による,校外への調査活動を,授業時間内にも認めていく。
2.学習目標
●郷土の姿や世界の姿を追究する中で,確かな「学び方」を身につける。 
●郷土を見つけたり,郷土から見広げたりすることを通して,郷土・世界の現状を正しく認識し,私たちの現在そして未来の生活をよりよく創造していこうとする心を身につける。 
●学年の枠を超えた学習グループでの活動を通じて,仲間との協力・連帯の姿勢を育てる。

―――――――――――――――――――――――――――

                                    

特に,1年生は・・・ 
●先輩たちのリードの基に,興味関心をもって取り組もう。 
●「学び」の手順を体験し,基礎としての学習方法を身につけよう。
特に,2年生は・・・ 
●学習グループ内の中堅的な存在として,積極的な姿勢で取り組もう 
●課題の見つめ方や探り方に工夫を凝らし「学び」の手順を自分のものにしよう。
特に,3年生は・・・ 
●課題研究学習グループ内のリーダーとしてグループの活動を指揮し,まとめよう。 
●これまでのB・Tの集大成としての学習を展開しよう。

  

3..学習内容(開設分科会)

    「BIWAKO TIME」の開設分科会とグループ別学習テーマ例

分野/領域 BIWAKOを見つめる分科会 BIWAKOから広げる分科会
 
 
 

自然と環境

1 滋賀の自然 7 湖を持つ世界の国々の自然
・琵琶湖の固有種の種類と生態 
・外来魚の生態と歴史 
・滋賀の水鳥〜生態に迫る〜
・世界の湖と琵琶湖〜自然・生活〜 
・湖の未来と環境を守る人々 
・世界の湖の文化や産業
2 実態調査 相模川 8 実態調査 GLOBE
・ポイント別の透明度を調べよう 
・相模川の昔と今 
〜パックテストで調査〜 
・ホタルが住める環境
・同じ経度による気温の違い 
・温暖化〜50年後の気候を考えよう〜 
・砂漠化と植生の関係
 
 
 

くらしと文化

3 琵琶湖の今を生きる人々 9 湖と暮らす世界の人々
・琵琶湖の環境を守る人々 
・文化財を守る人々 
・伝統工芸を守る人々
・世界の湖の特産物〜鮒ずしと比べて〜 
・世界の湖の名所と見所 
・世界の漁業と琵琶湖の漁業
4 琵琶湖に息づく伝統と文化 10 世界のさまざまな文化
・信楽焼の過去と現在 
・みたらし団子の隠されたなぞ 
・唐橋焼の職人技にせまる
・世界の結婚式〜愛って何だろう〜 
・世界の民族衣装 
・世界ゲテモノ料理大調査
  5 琵琶湖の今,そして未来 11 国際化する社会の中の私たち
・開発とその問題点 
・なぎさ公園の開発
・世界の週間〜衣・食・住〜 
・世界の宗教と生活文化の違い
郷土の課題 

世界の課題

・埋め立て地の利用と問題点 Let's come in contact with the world
6 歴史の中の近江と滋賀の未来 12 地球が抱える諸問題
・近江商人の生き方と今への影響 
・近江の戦乱と今の遺跡 
・東海道と湖上輸送, 
そして滋賀の未来交通
・地球の温暖化 
〜その原因,影響,対策〜 
・森林の濫伐そして砂漠化 
・飢餓に苦しむ子どもたち

3.H・Tの実践

1.H・Tのカリキュラム編成の視点

日常の道徳の時間・学級活動では取り組めないひとまとまりの学習活動を仕組み,日頃の道徳の時間・学級活動の成果としての「人」のあり方,社会との関わり方をさらに深化・拡充あるいは実践化していく学習の場が「H・T」である。

特に,この学習では,実践力を養うための「体験」を活動の中に取り入れたり,学校外の施設・人材を活用したり,課題追究的,体験的な活動を重視しているところに特徴がある。また,それぞれの学年間の系統性を図り,3年間の「心の高まり」を追究していることや,各学年ごとに「ワークブック」を作成し,「生き方を学ぶ」という観点でいつでも学習の内容を振り返ることができるようにし,学習の見通しがもてるようにしていることも特徴である。

さらに,道徳の時間・学級活動との関連と違いを明らかにしながら,系統性のある活動を組織している。

2.学習目標

HUMAN TIME(H・T)とは,「人」としてのあり方や,「人」としての社会との関わり方を学ぶ総合学習(「生き方を学ぶ」総合学習)である。

「H・T」のワークブックの最初のぺ一ジには次のように記されている。

「人間らしく幸福に生きること」とは,いったいどういうことでしょうか。「人間文明」の驚異的な発展は,数々の便利さを私たちの生活にもたらしました。 たとえば,医療の進歩がより長く生きることを可能にしました。高性能のコンピュータが高速度の情報網を発展させました。マス・メディアは大量の情報を私たちに流し続けるようになりました。自動機械が,人と人とのやりとりの能率の悪さを笑うようになりました。私たちは「豊かさ」をこの手にしたように思えます。 
しかし,「人間らしく幸福に生きること」とは,いったいどういうことでしょうか。こうした「人間文明」の発展が,私たちの「生き方」や「心」をも豊かにしたとはいえない現実がここにあります。価値観のゆがみが,かえって私たちを「貧しく」している現実がここにあります。 
私たちは,まだまだ勉強せねばなりません。勉強をして,「人」としての命を燃やさねばなりません。「人間らしく幸福に生き」なければならないのです。
3.学習内容・学習計画

『HUMAN TIME』には,「人」としてどう生きるかを軸に,四つの柱がある。

 
福祉・ボランティアに関する学習
 
に関する学習
 
進路に関する学習
 
人権に関する学習
 
   

「人」としてどう生きるか

      この四本柱のもとに,中学校3年間『HUMAN TIME』の学習が組み上げられている。

  1年生 2年生 3年生

福 
祉 
・ 
人 

★共に生きる 

(障害を持つ人への理解・ 
附属養護学校訪問)

★人権を考える 

(人権獲得の歴史)

★私たちの小さな社会参加 
(社会福祉施設訪問) 

★人として生きる社会 
(人権をおかす諸問題)

★人間と性 

(第二次性徴と 
どう向き合うか)

★性を見つめて 

(性をめぐる 
諸問題をとらえる)

★AIDS問題を考える 

(AIDSを正しく認識する)

進 

★自己を見つめて 

(適性テストとその分析)

★よりよい進路実現のために 

(様々な進路を調べる)

★自分の将来を考える 

(社会人としての心構え 
を知る)

ボ 
ラ 
ン 
テ 
ィ 
★私たちにできること 

(ボランティアについて 
考え行動する)

★私たちにできること 

(ボランティアについて 
考え行動する)

★私たちにできること 

(ボランティアについて 
考え行動する)

以上のような内容・計画で,人としてのよりよいあり方・生き方を探る「H・T」の学習を展開しているが,次のような観点からも「H・T」を整理することができる。

A:体験のある学習場面

1年生「福祉・人権」・・・・・障害をもつ人(附属養護学校生)との生活交流(レクリエーション昼食)

2年生「進路」・・・・・・・・・・・進路先調査のための高等学校調査や学校訪問

いろいろな職業の人への職場訪問・インタビューやアンケート実施

1・2年生「ボランティア」・・・身近な地域でのボランティア活動(募金活動,湖岸清掃)

ボランティアに関するアンケートの実施

3年生「福祉・人権」・・・・・社会福祉施設(真盛園,むつみ園,やわらぎ苑,小鳩乳児院,共同作業所瑞穂)でのボランティア体験

B:外部の人材が活用される学習場面

1年生「性」・・・・・ 大学助教授

3年生「性」・・・・・ 助産婦

2年生「進路」・・・・特別養護老人ホーム職員,ケアーセンター職員

3年生「進路」・・・・会社員

3年生「人権」・・・・高等学校教諭

全学年「ボランティア」・・・保育園長

C:課題・コース選択のある学習場面

2年生「性」・・・・・・

3つの分野(男と女・性の問題・愛とは)に分かれて,「性」に関わる課題を設定し,学習活動を展開する

3年生「福祉・人権」・・5つの訪問先(社会福祉施設)を選択し,ボランティア活動を展開する。