■ 広島大学附属福山中・高等学校の中高一貫教育 ■
関連資料 1997.6 [中央教育審議会第二次答申]より抜粋
※この資料の詳細は文部省のホームページ
http://www.monbu.go.jp/series/
にあります。
第3章 中高一貫教育
(1)中高一貫教育の意義と選択的導入
[1]中高一貫教育の意義と特色
今日、一人一人の能力・適性に応じた教育を進めるため、学校教育における教育内容・方法のみならず、学校間の接続を改善し、教育制度の面で多様かつ柔軟な対応を行っていくことが求められている。特に、子どもたちが心身の成長や変化の著しい多感な時期にある中等教育の在り方については、その改善の必要性が指摘されてきている。中学校教育と高等学校教育とを入学者選抜を課すことなく接続し、6年間の一貫した教育を行う中高一貫教育については、そうしたことを背景に、後述する様々な利点に対する評価の高まりとあいまって、教育界からはもとより、幅広く社会的な関心が集まっており、その導入の是非は今日的に極めて重要な課題となっている。
これまでの教育改革の論議においても、中高一貫教育は、様々な形で検討が行われてきた。昭和46年の中央教育審議会答申「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」においては、漸進的な6・3・3制の学校体系の改革を推進する第一歩として中高一貫教育などを先導的に試行すべき旨提言されたが、教育関係者等の共通理解が得られなかったこともあり、実施が見送られた。その後、昭和60年の臨時教育審議会「教育改革に関する第一次答申」において、6年制中等学校の設置が提言され、これを踏まえて具体的な調査研究も行われたが、平成3年の中央教育審議会答申「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」においても指摘されているとおり、中高一貫教育には受験競争の低年齢化を招くおそれがあることなどから、最終的な結論は持ち越されてきた。
一方、現状を見ると、中高一貫教育は、国私立の中・高等学校において、実際上、相当の広がりをもって行われているところである。また、公立については、平成6年に、それまでに例のなかった県立中学校が、県立高等学校と接続する形で設置され、実際上、初めての中高一貫教育が緒についている。
これまでになされた提言やそれに基づく調査研究、あるいは国公私立での中高一貫教育の状況を踏まえると、中高一貫教育については、次のような特色があると考えられる。まず、中高一貫教育の利点としては、(a) 高等学校入学者選抜の影響を受けずにゆとりのある安定的な学校生活が送れること、(b) 6年間の計画的・継続的な教育指導が展開でき効果的な一貫した教育が可能となること、(c) 6年間にわたり生徒を継続的に把握することにより生徒の個性を伸長したり、優れた才能の発見がよりできること、(d) 中学1年生から高校3年生までの異年齢集団による活動が行えることにより、社会性や豊かな人間性をより育成できることなどが挙げられる。一方、問題点としては、(a) 制度の適切な運用が図られない場合には、受験競争の低年齢化につながるおそれがあること、(b) 受験準備に偏した教育が行われるおそれがあること、(c) 小学校の卒業段階での進路選択は困難なこと、(d) 心身発達の差異の大きい生徒を対象とするため学校運営に困難が生じる場合があること、(e) 生徒集団が長期間同一メンバーで固定されることにより学習環境になじめない生徒が生じるおそれがあること、などが挙げられる。
このように中高一貫教育については、一方で問題点があるものの、利点と考えられる点も多い。とりわけ、子どもたちに[ゆとり]を与える必要性を訴えた第一次答申の理念を踏まえると、これら数々の利点の中で、[ゆとり]ある学校生活をおくることを可能にするということの意義は大きいと言わなければならない。[ゆとり]ある学校生活を実現することは、子どもたちが様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねること等を通じて、豊かな学習をし、個性や創造性を存分に伸ばしていくことをより可能とするという観点から、今日特に大切なことと考える。そして、子どもたちの個性を見出し、これを伸ばしていく中で、じっくり学ぶことを希望する子どもたちに対して十分な指導をしていく可能性が広がることも期待される。また、中高一貫教育の導入は、中学校と高等学校の間のハードルを低くするという、高等学校入学者選抜の改善の方向にも沿うものであると言える。このように考え、我々は、大きな幾つかの利点を持つ中高一貫教育を享受する機会を、子どもたちにより広く提供していくことが望ましく、中高一貫教育を導入することが適当であるとの結論に達した。
[2]中高一貫教育の選択的導入
それでは、中高一貫教育を、現行の6・3・3制の学校体系の中でどのように位置付けて、その導入を図っていくべきであろうか。幅広い観点から議論を行った結果、我々は、6・3・3制を一律に6・6制に改めるという画一的な改革を行うのではなく、以下のような考え方に立って、子どもたちや保護者などの選択の幅を広げ、学校制度の複線化構造を進める観点から、中高一貫教育の選択的導入を行うことが適当であると考えた。
前述の中高一貫教育の利点と問題点は、いずれもある程度一般的なものではあるが、その重さが、一人一人の子どもたちや保護者にとって異なっていることは言うまでもない。
一方、現行制度の利点と意義はどうであろうか。中学校の時期の特質について、端的に表現するならば、子どもたちの心身の成長や変化が著しい時期と言うことができる。この時期は、様々な社会的経験や多様な個性の触れ合いなどを通じた人間関係の広がりと深まりの中で、自らと社会とのかかわりや将来の生き方について考え、自己を確立していく重要な段階である。すなわち、小学校を卒業した時点では見出せていなかった自らの能力・適性、興味・関心、希望などを、3年間にわたる学習や生活の中で発見し、はぐくんでいくことを可能とする段階として位置付けられる。
このように考えれば、中学校で学習しながら、自己の希望や目標が具体化し、進路意識が明確になった時点で、多様な高等学校の中から、自らの能力・適性、興味・関心等に対応した、最もふさわしい学校を主体的に選択できるという現行制度もまた、大きな利点と意義を有するものである。そして、このような観点から、段階を追って清新な気持ちで進学したいと考える子どもたちや保護者が多数いることは尊重されなければならない。さらに、中学校及び高等学校のそれぞれの段階で、できるだけ多くの友達と様々な交流をすることを通じて、人間的成長の契機としたいと考える子どもたちや保護者が大勢いるということにも留意しなければならない。
なお、こうした現行制度の持つ利点と意義を十分に生かしていく上でも、高等学校入学者選抜の改善を図っていくことが強く望まれるところである。高等学校入学者選抜の改善については、第2章第3節において、中学校・高等学校間のハードルをより低くしていくこと、中学校以下の教育の改善の方向を尊重した改善を進めること等といった基本方向の下、具体的な提言を行っており、これらに沿った取組を進めていくことが大切であることを改めて指摘しておきたい。
いずれにしても、中高一貫教育の利点と問題点の軽重について、現行制度と比較しながら総合的に判断するのは、あくまでそれぞれの子どもたちや保護者であり、高等学校入学者選抜の改善を図る中で、従来の中学校・高等学校に区分された中等教育と、中高一貫教育とを選択可能とする柔軟な学校制度を設けることが望まれるのである。
中高一貫教育の選択的導入は、既に進みつつある中等教育全体の多様化・複線化あるいは多線化という観点からも要請される。高等学校については、総合学科や単位制高等学校の拡充、選択幅の広い教育課程の編成、自校以外の学習成果の単位認定の導入、中学校については、選択履修の幅の拡大など、それぞれの学校段階で、言わば「横の多様化・複線化」が進んできており、その流れは第一次答申を受けて更に加速していくだろう。このように子どもたちや保護者の選択の幅が広がっていく流れの中で、中学校・高等学校が3年ずつに区分された制度以外に選択の余地が乏しいという現在の中等教育の学校体系の見直しが求められているのである。中高一貫教育の選択的導入は、言わば「縦の多様化・複線化」を実現するものであり、中等教育全体の多様化・複線化、さらには学校制度の複線化構造を進める一環として、極めて重要な意義を持つのである。
また、中高一貫教育の選択的導入は、子どもたちや保護者の選択の幅を広げることにとどまらず、地方公共団体や学校法人などの学校設置者が、自らの創意工夫によって特色ある教育を展開する裁量の範囲を拡大することに資するものである。とりわけ、後述する制度改革により、地方公共団体が自らの主体的な判断により、これまで専ら国私立学校によって担われてきた中高一貫教育を提供することができるようにすることは、公立学校をより多様で魅力あるものとし、子どもたちに対して中高一貫教育を享受する機会を公平に提供する観点からも、重要な意義を持っている。
なお、こうした意義の一方、中高一貫教育については、その導入が過度の受験競争に一層の拍車をかけるおそれがあるとする指摘がある。過度の受験競争の問題が、今日取り組むべき最も重要な教育上の課題の一つとなっていることを踏まえると、中高一貫教育の導入に当たって、こうした懸念が払拭されるよう具体的な取組が必要であり、以下、中高一貫教育の導入の在り方について述べる中で、幾つかの提言を行いたい。
(2)中高一貫教育の導入の具体的な在り方
[1]中高一貫教育の実施形態
中高一貫教育の導入は、中等教育全体の多様化・複線化の一環であり、子どもたちや保護者の選択の幅を広げることを趣旨とするものであることから、子どもたちや保護者のニーズ、地域の実情を十分に踏まえて進められることが求められる。したがって、中高一貫教育を導入するかどうか、導入するとすればどのような学校とするのかについては、そうした子どもたちや保護者のニーズ、地域の実情を把握している地方公共団体や学校法人などの主体的な判断を尊重することが適当と考えられる。そして、この問題における国の役割は、地方公共団体等に対して一律に中高一貫教育の導入を求めることでなく、地方公共団体等が自らの判断により、中高一貫教育を導入できるよう、制度上の隘路を取り除くことを含めて、所要の制度改革を行うことと考えられる。
我々は、中高一貫教育の実施形態について、まず、設置者の在り方から検討した。現在の中学校及び高等学校を見ると、中学校についてはほとんど大部分が市町村立となっており、また、高等学校については、全学校数の約4分の3が公立(うち大部分が都道府県立であり、ごく一部が市町村立)、約4分の1が私立となっている。そこで、我々は、中高一貫教育の基本的な実施形態として、次のようなものがあると考えた。
まず、第一の実施形態としては、同一の設置者(都道府県、市町村、学校法人など)が中学校・高等学校を併設し、入学者選抜を課すことなく接続するという形態が考えられる。これについては、(a) 独立した中学校と高等学校を併設する場合のほか、更に発展して、中学校段階と高等学校段階それぞれの学校運営の一体性をより確保するという観点から、(b) 一つの6年制の学校(いわゆる6年制中等学校)として設置・運営する場合が考えられる。なお、この6年制の学校については、現行の義務教育制度が安定したものであり、現行制度の下で、中学校教育と高等学校教育のそれぞれの教育内容を前提としつつ、それらを一つの学校として提供するものとして考え、義務教育制度の変更をもたらすような性格のものとして構想するものではない。
次に、第二の実施形態としては、一校又は複数の市町村立中学校と都道府県立高等学校とを連携させ、高等学校入学者選抜を行わず、6年間の計画的・継続的な教育を行うという場合も考えられる。
ここまで述べてきた中高一貫教育の意義や特色に関する様々な指摘は、基本的にはこれらの形態すべてに共通するものであり、その選択については、地方公共団体や学校法人が、地域や学校の実情等を踏まえて、最も適した形態を採ればよいと考えられる。すなわち、中高一貫教育の円滑な導入を図るためには、国にあっては、地方公共団体や学校法人が、必要に応じていずれの形態をも選択できるように所要の制度改革を行うことが必要である。
そこで我々は、どのように現行の学校制度を改革する必要があるかを検討した。まず、中高一貫教育については、中学校段階から高等学校段階へ進む際に選抜を行わないことが前提であるが、現行制度上は選抜が必須となっており、この点での制度改革が必要である。また、第一の実施形態については、地方公共団体が設置する場合の教職員給与費や施設費の負担方法などについて所要の制度改革が必要となると考えられる。
[2]教育内容
中高一貫教育の具体的な教育内容については、[ゆとり]のある学校生活の中で、それぞれの子どもの個性や創造性を大いに伸ばすという中高一貫教育の趣旨を十分生かすことができるよう、義務教育段階での基礎・基本をしっかりと身に付けさせるとともに、年齢が進むにつれて多様化していく生徒の能力・適性、興味・関心、進路等に対応して、生徒の選択を重視した、できるだけ多様な教育を提供することが望まれる。
また、中高一貫教育を行う学校(以下、「中高一貫校」という。)の教育内容については、このような基本的な考え方の下、様々な創意工夫が凝らされることが期待されるが、とりわけ、地域との連携を図りつつ、社会体験や自然体験を中心に様々な体験学習を積極的に取り入れることなどにより、従来の中学校教育や高等学校教育では見出しにくかった生徒の能力・適性等を見出し、それらの伸長を図っていくことができるようなものとすることが必要である。
中高一貫教育の教育内容の類型について、現在の高等学校の学科のタイプに即して検討すると、(a) 普通科タイプ、(b) 総合学科タイプ、(c) 専門学科(職業学科、芸術科、体育科、外国語科、理数科など)タイプ、などがあると考えられる。このうち、(a) については、ゆっくりと落ち着いて学びたいと考える生徒の希望に適切にこたえることができると考えられるほか、体験学習を重視したり、地域の特性を生かした系統的な教育活動を行ったり、情報、外国語などに重点を置いた学習を行うことができるようにすることなどにより、普通科における教育のより一層の多様化に資することが期待される。また、(b) については、中学校段階から高等学校段階へと進むにつれてますます多様化する生徒の能力・適性、興味・関心に対応し、様々な教科・科目の中から、生徒の主体的な選択を可能にするという観点で、非常に有効なタイプと考えられる。さらに、(c) については、例えば、音楽や美術、スポーツなどに興味・関心を有し、明確な目的意識を持った生徒に対し、その興味・関心を比較的早くから深めていくという観点から考えられるであろう。なお、実際に中高一貫教育を導入する際には、これらの類型を組み合わせたりすることにより、できるだけ生徒の学習の選択幅が広がるような多様なコースが設けられることが望まれる。
このように、それぞれについて意義があることから、現在進めている高等学校教育の多様化との整合性を図るためにも、いずれのタイプも地域や学校の実情に応じて可能とすることが適当と考える。既に述べたとおり、中高一貫教育を行う学校を設置するかどうか、設置するとすれば、どのような学校とするのかについては、子どもたちや保護者のニーズ、地域の実情を把握している地方公共団体や学校法人などの主体的な判断を尊重することが適当であり、教育内容のタイプについても、その選択にゆだねていくことが望ましい。
ただし、普通科タイプの場合、受験準備に偏した教育が行われるのではないかということが最も懸念されるところである。普通科タイプの中高一貫校が、いわゆる「受験エリート校」となり、偏差値による学校間の序列化を助長するようなことはあってはならないと考える。我々は受験準備に偏した教育が行われることは適当でなく、また、中高一貫教育を導入する本旨ではないと考えており、そうした教育を行わないよう、関係者には強く求めたい。
なお、このような懸念が生じる背景には、現在の大学入学者選抜の在り方が学力試験を偏重しているということがあると考えられる。様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねるなど[ゆとり]ある学校生活をより可能としていくという中高一貫教育の趣旨を実現するとの観点からも、大学入学者選抜の在り方を、学力試験の偏重から、選抜方法の多様化、評価尺度の多元化に向けて変えていくことが必要である。その際、具体的には、総合学科タイプや専門学科タイプなどの中高一貫校の卒業生について、こうした中高一貫教育の趣旨を一層実現する観点から、例えば、推薦入学などの方法を通じて大学に受け入れていくことも検討されるべきである。
さらに、教育課程の大綱的な基準である現行の学習指導要領においては、既に教育課程の弾力化が進められ、教育内容の精選が図られており、こうした趣旨を生かして、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねるなど[ゆとり]ある学校生活を送ることをより可能としていくという中高一貫教育のねらいを達成していくことが必要である。また、今後の学習指導要領の改訂に当たっても、選択履修の拡大など教育課程の弾力化や教育内容の厳選について配慮がなされていくと考えられるので、そのような趣旨も生かして、中高一貫教育の理念が一層実現されるよう留意する必要がある。
なお、中高一貫校の教育内容の問題に関連して、小学校の子どもたちや保護者、とりわけ保護者に対しては、中高一貫教育の導入の趣旨を理解し、大学受験等に有利かどうかといった観点だけで進学すべき学校を選択することのないよう求めたい。このため、特に保護者が子どもたちにふさわしい選択をすることができるよう、中高一貫校の設置者などにおいては、適切な情報提供等について十分配慮していくことが必要である。
[3]中高一貫校における特色ある教育の展開
我々は、中高一貫教育を導入する学校が、どのような特色ある教育を展開していく可能性を持っているかについて検討した。中高一貫教育の選択的導入が、子どもたちや保護者による学校選択の幅を広げていくということを目指すものであることからすると、新たに中高一貫教育を導入する学校は、いずれの教育内容のタイプであっても、より特色ある教育をしっかりと提供していくことが望まれるのである。もちろん、現行の中学校、高等学校においても、特色ある様々な教育活動が展開されているところであるが、中高一貫教育においては、6年間にわたる[ゆとり]を十分に生かす中で、特色ある教育を幅広く効果的に提供していくことが考えられる。具体的にどのような特色を備えた中高一貫校とするかについては、地方公共団体など設置者が考えていくべき問題であり、本審議会として固定的な類型化をしようとするものではないが、以下、幾つかの特色の例を提示しておきたい。なお、これらの特色を組み合わせた教育活動を展開していくことも有効と考える。
(a) 体験学習を重視する学校
体験学習を重視する観点から、体験学習を6年間の一貫した教育活動における軸に据えて、様々な教科等における日常の指導全体にわたって、ボランティア体験、社会体験、勤労体験、自然体験を盛り込んだり、実際の観察・実験やフィールドワークに比重を置いたり、あるいは問題解決型学習を積極的に取り入れることが考えられよう。例えば、理科の指導においては、6年間を見通したカリキュラムを編成する中で[ゆとり]を生み出し、これまで必ずしも十分な時間が当てられなかった、野外での動植物の観察、天体や気象の観測、物理や化学に関する実験に力を注いでいくことが期待される。また、多様な教育活動の一環として、将来の職業選択や職業生活に資するため、実際の企業等において、一定期間にわたる職業体験を行うことも考えられる。
(b) 地域に関する学習を重視する学校
地域に関する学習を重視する観点から、6年間にわたって地域に関する学習を基調とした教育活動を展開し、各教科等において、地域の歴史や文化、自然、産業を活かした指導内容を重視したり、様々な教材の利用に際してそうした地域の特色を反映させたり、地域の人材を講師として積極的に活用したり、地域の社会教育施設や様々な団体等と連携を図っていくことなどが考えられよう。こうした教育活動を通じて、その地域における次代の人材を養成する役割を担うことも期待されるところである。
(c) 国際化に対応する教育を重視する学校
急速に進む国際化の中で生きていくために必要となる資質や能力を子どもたちに養っていくことは、今日の教育において極めて重要な課題となっている。国際化に対応する教育を重視する観点を軸に据えて、6年間にわたり、じっくり時間をかけてコミュニケーション能力の育成に取り組むなど外国語教育の充実を図るとともに、海外留学プログラムを組み込んだり、教育活動の様々な場面で、外国人留学生や地域の外国人との触れ合いなど国際交流活動を盛り込んだり、国際理解教育に関する選択科目を設けたり、ディスカッションの力を養う指導を行ったり、併せて我が国の伝統や文化に関する理解を深める指導を進めるなど、いろいろな工夫を凝らしていくことが期待される。
(d) 情報化に対応する教育を重視する学校
高度情報通信社会で生きていくために必要となる資質や能力を子どもたちに養っていくことは、今日の教育において極めて重要な課題となっている。情報化に対応する教育を重視する観点を軸に据えて、6年間にわたり、十分な時間をかけてインターネットなどの情報ネットワークを活用したり、情報リテラシーを体系的に育成したり、情報モラルをしっかりと身に付けさせるような教育活動を積極的に取り入れていくことが期待される。
(e) 環境に関する学習を重視する学校
環境に関する学習も、今後の教育において一層重要となる分野であり、6年間にわたる体系的な指導によって、より豊かな成果が得られるものと考えられる。環境に関する学習を重視する観点を軸に据えて、山野を跋渉して自然現象や動植物に直接触れ、観察するといった自然体験活動を、6年間の[ゆとり]ある学校生活の中に大いに取り入れ、環境や自然を大切にする心や環境問題に主体的にかかわっていく資質や能力を効果的にはぐくんでいくことが期待される。
(f) 伝統文化等の継承のための教育を重視する学校
過去から連綿として受け継がれてきた我が国の伝統文化等を継承・発展させていくことは、国際化が進展する中、ますます重要になっているが、各地域においては、伝統文化等への理解が不十分であったり、その後継者が不足するといった問題に直面している。伝統文化等への理解を深めさせ、その継承を図るための教育を重視する観点を軸に据えて、6年間にわたり、体験活動を積極的に取り入れ、伝統工芸や伝統産業の技術を伝承したり、伝統芸能の技を伝授するなどの教育活動を展開していくことも考えられる。これにより、伝統文化等に対する理解が広がることはもとより、さらには伝統文化の後継者や特色ある地場産業の専門的技術の後継者の養成につながることも期待される。
(g) じっくり学びたい子どもたちの希望にこたえる学校
中高一貫校は、ともすれば効率よく学習を進めていくようなイメージを抱かれることがあるが、むしろ、試行錯誤をしながら自分に応じた進度でじっくり学ぶことを希望する子どもたちに対して、その希望にこたえる有効な形態と考えられる。すなわち、中高一貫校の下では、そうした子どもたちの学習の状況を6年間全体にわたって継続的に把握し、個別のきめ細かな教育計画を立てて子どもたちを指導していくことが期待される。また、前述した様々な体験活動を6年間にわたって積極的に盛り込むことにより、学びの原動力とも言うべき興味・関心や意欲を引き出していくことも期待できよう。
また、仮に学習面でのつまずきが生じた場合であっても、例えば、中学校段階に生じた学習のつまずきを的確につかみ、教員間の密接な連携の下、6年間の中で基礎・基本を確実に学ばせ、これを克服していくことも考えられよう。6年間の学校生活の[ゆとり]の中で、むやみに問題の解決に焦ることなく、じっくりと腰を据えてそうした子どもたちに向き合っていくことが期待されるのである。
このように、じっくり学ぶことを希望する子どもたちに対する手厚い指導を特色とする中高一貫校もあってよいと考える。
[4]入学者を定める方法
中高一貫教育の導入に伴って、最も懸念されることは、入学者を定める方法の在り方によっては、受験競争の低年齢化を招くのではないかということである。現に、実際上中高一貫教育を行っている、一部の国私立中学校の入学者選抜については、受験競争の低年齢化に拍車をかけていると指摘されるところである。
今後、中高一貫教育を進めるに当たっては、[ゆとり]ある学校生活を送るべき小学生が受験のための塾通いを行うなど受験競争の低年齢化を招くことのないよう適切な配慮を行うことが不可欠であり、いたずらに難度の高い試験問題によって選抜を行うことなく、学校の個性や特色に応じた適切な方法により入学者を定めることが望ましいと考える。特に、地方公共団体が設置する学校にあっては、学力試験は行わないこととし、入学希望者が多く選抜が必要となった場合でも、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねるなどの中高一貫校の個性や特色に応じて、抽選や面接、小学校からの推薦、調査書、実技検査など多様な方法を適切に組み合わせて入学者を定めることが適当であると考える。例えば、自然体験やボランティア体験などの体験学習を重視する学校において観察・実験などを行ったり、職業教育や芸術・体育などの専門教育を行う学校においてそれぞれにふさわしい実技検査を行うことなどが考えられる。
なお、一部の国私立中学校においては、現在、学力試験を偏重する入学者選抜や小学校教育の趣旨を逸脱した出題を行っており、そうした中学校入試のため、都市部を中心に受験競争の低年齢化が進み、甚だしい場合には小学校低学年の子どもまでもが塾に通い、受験勉強に駆り立てられるという状況が生じている。このようなことは、子どもたちの発達段階を考えれば、極めて問題であり、受験競争の低年齢化を招かないようにするという観点から、一部の国私立中学校に対しては、早急にその入試の改善を強く求めたい。
[5]高等学校段階に進む時点での入退学等についての配慮
次に、高等学校段階に進む時点での入退学については、どのように考えるべきであろうか。中高一貫教育を導入する場合、中高一貫教育が6年間一貫した教育を通じて、様々な利点を生じるものである以上、子どもたちがそうした教育を行う学校に引き続き在籍することが基本となることは言うまでもない。しかしながら、高等学校教育全体を柔らかなシステムにするという観点から、高等学校段階に進む時点での入退学について所要の配慮を行うことが大切である。すなわち、進路変更を希望する生徒に対しては、他の高等学校への進学などに必要な配慮をしたり、学校を活性化する観点からもある程度の数の者を高等学校段階で入学を認めることは、十分考慮する必要がある。なお、9年間の義務教育制度を前提として中高一貫教育を導入することからも、6年制の学校の場合、第3年次修了者が、中学校を卒業した者と同等に取り扱われるべきことは当然である。
こうしたことのほか、中高一貫教育の導入に当たっては、幾つかの配慮すべき点がある。先に中高一貫教育の問題点として、生徒集団が長期間同一メンバーで固定されることにより学習環境になじめない生徒が生じるおそれがあることを指摘したところであるが、この問題を和らげる上でも、途中で転学を希望する生徒に対して、十分に配慮をしていくことが求められる。また、こうした問題とともに、心身発達の差異の大きい生徒を対象とするため学校運営に困難が生じる場合がある旨も指摘したが、これらの問題をできるだけ解決するため、日常の指導や学校運営に当たっても、中学校・高等学校の両段階を通じて教員が緊密に連携し、きめ細かな配慮をしていくことが必要である。その際、特に、生徒の発達段階の差異に応じた指導を行うこととともに、社会性や豊かな人間性の育成といった意義を持つ生徒の異年齢集団による活動を展開するに当たっては、様々な工夫を凝らしていくことが求められる。
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