化学分野における実験による実力テストの試み
  −丸本浩 広島大学附属福山中等教育研究紀要第38巻抜粋−
 

 当校の理科教育における重要な柱の一つとして生徒実験の重視と
いう点が上げられる。
 平素の授業ではできるだけ多くの生徒実験を取り入れ,さらに中・高
の各学年の状況に応じて探究活動や課題研究などが積極的に取り
入れられている。さらに,高校1年生の「校内実力テスト」では,希望
選択者を対象として「実験によるテスト」の試みがなされてきた。ここ
では,化学分野の実践例を紹介する。 
 

1.実施状況および課題

実施日 1992年11月12日
対象生徒 高校1年 29名 各自1人で実験をする
課題   実験により5種類の白色粉末物質の判別をすること
 
 5種類の白色の粉末A〜Eがある。これらの粉末は,塩化アンモニウム(NH4Cl),水酸化カルシウム(Ca(OH)2),グルコース(C6H12O6),塩化ナトリウム(NaCl),炭酸水素ナトリウム(NaHCO3),のいずれかである。粉末A〜Eがそれぞれどの物質であるかを実験を行って決定し,その結果を詳しくレポートにまとめよ。ただし,実験を行う前に,次の事項についてよく考えてから取りかかること。 
 1.物質を確認する原理・方法をよく理解し整理すること。 
 2.実験の方法・操作の手順をよく考えること。 
 3.実験に必要な器具・薬品類のリストを作成すること。 
 4.他人のまねをせず,自分のなりの方法を工夫すること。 
 5.安全に実験をするように十分注意すること。(危険な行為をしない:薬品をなめてはいけない)
制限時間:実験並びにレポート作成時間を含めて80分

準備した実験器具
 1.かごに入れて生徒一人ずつに配布
     試験管(10),ガラス棒(1),試験管立て(1),やくさじ(1)
     駒込ピペット(1),試験管ばさみ(1),マッチ(1),蒸留水(1)
     A〜Eの薬品
 2.教卓においた器具,薬品
     ステンレス線,ルーペ,リトマス試験紙,BTB溶液,フェノールフタレイン溶液
     希HCl,硝酸銀水溶液
 3.生徒が要求して追加したもの
     薬さじ,金網,沸騰石,メートルグラス,蒸発皿,ストロー,ビーカー,三脚
     気体誘導管,ゴム栓,石灰水

2.実験の原理・方法
  生徒が判別に利用すると考えられる方法は以下の通りです。
   (1)粉末の観察(結晶の形,大きさ,におい,潮解性,風解性など)
   (2)加熱
       固体の融点を調べる,黒くなったら有機物
   (3)水に溶かす
       溶解度の違い,気体は発生しないか
   (4)水溶液の液性
   (5)炎色反応
   (6)酸アルカリを加える
   (7)硝酸銀を加える

3.評価方法
   (1)実験について(5点満点)
       ・積極性
       ・安全性
       ・計画性
       ・操作性
       ・観察能力
   (2)レポートについて(5点満点)
       ・平易度
       ・流れ
       ・記述力
       ・論述性
       ・独創性
   ※以上の評価基準に基づいて,3名の教官が巡回しながら評価した。   
   (3)結果 5種類を正確に確認したか(正確さ)5点

4.実力テストの結果
  

物質(化学式) NaCl NaHCO3 C6H12O6 NH4Cl Ca(OH)2
正答率(%) 86 45 79 41 55
 

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