教育課程審議会答申から(抜粋)
幼稚園,小学校,中学校,高等学校,盲学校,聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について
(平成10年7月29日答申)
I 教育課程の基準の改善の方針
2 各学校段階等を通じる教育課程の編成及び授業時数等の枠組み
(2)「総合的な学習の時間」
ア 「総合的な学習の時間」の創設の趣旨
「総合的な学習の時間」を創設する趣旨は,各学校が地域や学校の実態等に応じて創意工夫を生かして特色ある教育活動を展開できるような時間を確保することである。また,自ら学び自ら考える力などの[生きる力]は全人的な力であることを踏まえ,国際化や情報化をはじめ社会の変化に主体的に対応できる資質や能力を育成するために教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習をより円滑に実施するための時間を確保することである。
我々は,この時間が,自ら学び自ら考える力などの[生きる力]をはぐくむことを目指す今回の教育課程の基準の改善の趣旨を実現する極めて重要な役割を担うものと考えている。
イ 「総合的な学習の時間」のねらいや学習活動等について
(ア)「総合的な学習の時間」のねらいは,各学校の創意工夫を生かした横断的・総合的な学習や児童生徒の興味・関心等に基づく学習などを通じて,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てることである。また,情報の集め方,調べ方,まとめ方,報告や発表・討論の仕方などの学び方やものの考え方を身に付けること,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育成すること,自己の生き方についての自覚を深めることも大きなねらいの一つとしてあげられよう。これらを通じて,各教科等それぞれで身に付けられた知識や技能などが相互に関連付けられ,深められ児童生徒の中で総合的に働くようになるものと考える。
(イ)「総合的な学習の時間」の教育課程上の位置付けは,各学校において創意工夫を生かした学習活動であること,この時間の学習活動が各教科等にまたがるものであること等から考えて,国が目標,内容等を示す各教科等と同様なものとして位置付けることは適当ではないと考える。このため,国が,その基準を示すに当たっては,この時間のねらい,この時間を各学校における教育課程上必置とすることを定めるとともに,それに充てる授業時数などを示すにとどめることとし,各教科等のように内容を規定することはしないことが適当である。
高等学校については,生徒の学習成果がこの時間のねらいからみて満足できると
認められるものについては単位を与え,この単位は卒業に必要な修得単位数に含め
ることが適当である。
「総合的な学習の時間」のこのような特質にかんがみ,教育課程の基準上の名称
については「総合的な学習の時間」とすることとし,各学校における教育課程上の
具体的な名称については各学校において定めるようにすることが妥当であると考え
る。
(ウ)「総合的な学習の時間」の学習活動は,(ア)に示すねらいを踏まえ,地域や学校
の実態に応じ,各学校が創意工夫を十分発揮して展開するものであり,具体的な学習活動としては,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的
な課題,児童生徒の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題など
について,適宜学習課題や活動を設定して展開するようにすることが考えられる。
その際,自然体験やボランティアなどの社会体験,観察・実験,見学や調査,発表や討論,ものづくりや生産活動など体験的な学習,問題解決的な学習が積極的に展
開されることが望まれる。
なお,具体的な学習活動として,小学校において,国際理解教育の一環としての
外国語会話等が行われるときには,各学校の実態等に応じ,児童が外国語に触れた
り,外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験
的な学習活動が行われるようにすることが望ましい。さらに,高等学校においては,
「課題研究」や「産業社会と人間」との関連を考慮し,生徒が主体的に設定した課
題について知識・技能の深化・総合化を図る学習や,自己の在り方生き方や進路に
ついて考察する学習なども,この時間において適切に行われるよう配慮することが
望まれる。
各学校においてこの時間を展開するに当たっては,ある時期に集中的に行うなど
この時間が弾力的に設定できるようにするとともに,グループ学習や異年齢集団に
よる学習など多様な学習形態や,外部の人材の協力も得つつ,異なる教科の教師が
協力し,全教職員が一体となって指導に当たるなど指導体制を工夫すること,また,
校内にとどまらず地域の豊かな教材や学習環境を積極的に活用することを考慮する
ことも望まれる。
(エ)「総合的な学習の時間」の授業時数等については,この時間を活用して各学校で
多様な学習活動を展開するためには,ある程度まとまった時間が必要であることな
どを考慮し,小学校においては,別表1のとおりとし,中学校においては別表2の
とおりとすることとする。小学校については,低学年において総合的な性格をもつ
教科である生活科が設定されていることや生活科を中核とした他教科との合科的な
指導が進められていることなどを考慮して,第3学年以上に設定することとした。
また,中学校については,各学校において一層創意工夫を生かした特色ある教育課
程の編成が行えるよう,下限及び上限の幅をもって設定することとした。
高等学校については,一人一人の生徒の実態に応じた多様な学習や各学校の特色
に応じた教育の展開を可能とするため,「総合的な学習の時間」に充てる授業時数
及び単位数に幅を設けるものとする。
(オ)「総合的な学習の時間」の評価については,この時間の趣旨,ねらい等の特質が
生かされるよう,教科のように試験の成績によって数値的に評価することはせず,
活動や学習の過程,報告書や作品,発表や討論などに見られる学習の状況や成果な
どについて,児童生徒のよい点,学習に対する意欲や態度,進歩の状況などを踏ま
えて適切に評価することとし,例えば指導要録の記載においては,評定は行わず,
所見等を記述することが適当であると考える。
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