研究の動機


 平成26年8月の広島市での土砂災害では,局地的な短時間の大雨によって住宅地後背の山が崩れ,同時多発的に大規模な土石流が発生しました。広島市安佐南区八木地区は,最も多くの犠牲者が出ましたが,かつてこの地は「蛇落地悪谷」と呼ばれていたそうです。(「蛇落」は土石流の意味)この地区は複数の扇状地で構成される『複合扇状地』で,被災地は複数回の土石流で形成された扇状地であったと考えられているのだそうです。
 同じ広島県内で起こったこの災害を教訓とし,土砂災害に対する防災・減災のために私たちにできることは何かを考えるために,この研究を行うことにしました。

学校のまわりの急傾斜地の調査


 学校の正門から徒歩5分ほどのところに,広島県の急傾斜地崩壊危険区域の指定を受けているところがあります。ここには風化した花崗岩と新第三紀のまだ十分に固まっていない礫層が見られます。ここでは,斜面崩壊が過去に起こったことがあり,それを鎮めるための祠が祀られているところもあります。
 花崗岩が風化したまさ土の様子を実際に確かめるために,調査を行いました。

備後国分寺と堂々川の砂留めの調査


 福山市神辺町には,奈良時代に「備後国分寺」が創建されました。延宝元年(1673)の大雨の際には上流の堂々川で土石流が発生し,備後国分寺は土砂に埋もれたくさんの人が亡くなりました。その後江戸時代以降,この堂々川には砂留め(砂防ダム)が造られ,特に6番砂留は全国に現存する江戸時代の砂防ダムの中で最大のもので,現在は国登録有形文化財となっています。
 私たちは,この備後国分寺付近の実地調査を行いました。その結果,次の3つのことが明らかになりました。
 ① 山あいを流れてきた堂々川は,備後国分寺付近で平野に流れ出し,小規模な扇状地を形成しています。また,現在は河床がまわりの平地より高い天井川になっています。(地形の観察)
 ② 扇状地の断面には巨大な礫が見られ,これらを流すだけの速い流れが大量の土砂を運搬したと考えられます。(堆積物の観察)
 ③ 繰り返し発生した土石流を防ぐために,福山藩が砂留めを構築し,その後はこの場所での大きな災害はなくなったそうです。

提言


 備後国分寺の扇状地や川の底に見られた大きな礫は,普段の川の流れでは動かないので,それらが運ばれてきた時には,ものすごい水の流れがあったことがわかります。
 自分の住宅を建てる土地を選ぶ際には,急傾斜地や大きな礫がある場所は避けるべきだと思いました。この考え方を,みんなに知ってもらいたいと思います。

感想


 「防災マップや土砂災害の危険箇所などはインターネットを使えばかんたんに調べられるが,実際に現地を見ることでわかることの大切さを学んだ。」