前川宏一先生 講演会を開催しました
2026.05.21
東京大学名誉教授・横浜国立大学客員教授の前川宏一先生をお迎えし、ご講演をいただきました。今回は、1年生から6年生までの希望者約50名が参加し、学年を越えてインフラと土木工学について学ぶ貴重な機会となりました。



「インフラとは何か」から始まる学び
講演は「インフラって何? 公共って何?」という問いかけから始まりました。
私たちは、水道や道路、鉄道、建物など、さまざまなインフラに支えられながら生活しています。そしてそれらは単なる構造物ではなく、「社会を形づくるもの」であり、まさに土木工学は“空間を創造する工学”であるというお話がありました。

前川先生は、古くからの「築土構木(ちくどこうぼく)」の思想を紹介され、自然環境、社会インフラ、制度といった「社会的共通資本」が互いにつながり合いながら社会を支えていることをわかりやすく説明してくださいました。

さらに、「技術は人のため、社会のためにある」という視点のもと、インフラが社会そのものをつくる存在であることを、歴史的事例(台湾での八田與一の取り組みなど)を通して具体的に示されました。

「強さ」とは何か ― 災害と向き合う土木の考え方
講演の中でも特に印象的だったのは、「強い構造とは何か」という問いです。
地震そのものを予測することは難しい一方で、損傷後の構造挙動は設計によって制御できるという考え方が紹介されました。
例えば、
•一部の部材があえて壊れることで、全体の倒壊を防ぐ
•残ったエネルギーをどのように逃がし、人命を守るかを考える
といった、「壊れ方を設計する」発想です。



新幹線の橋脚の設計には、地震に強くするためのさまざまな工夫が取り入れられています。たとえば、単純に柱を高くしてしまうと、大きな地震でも倒壊を防ぐことはできる一方で、普段の走行時に揺れやすくなり、乗り心地の低下につながってしまいます。
そこで実際には、橋脚の途中に中間梁などの部材を設けて、日常の安定性と快適性を両立させています。さらに、大地震の際にはこの中間梁が先に損傷することでエネルギーを吸収し、構造全体の破壊を防ぐ「壊れ方をコントロールする設計」が採用されています。
このように「完全に壊れないようにする」のではなく、「安全に壊れることで全体を守る」という考え方が取り入れられていることが紹介され、生徒たちも驚きながら聞き入っていました。

また、「地盤もインフラの一部である」という視点も大変興味深いものでした。地盤の動きを可視化し、構造物と一体として設計するという考え方は、これからの土木工学において重要なテーマです。

時間とともに変化するインフラ
インフラは完成して終わりではなく、10年先、100年先を見据えて性能を評価し続ける必要があります。実際に、首都高速道路は開通から60年を迎え、1日に百万台ほどが行き交う中で、大規模修繕が進められています。

また、前川先生は「損傷=悪いことではない」という興味深い視点も提示されました。コンクリートにひびが入ることで内部構造が変化し、より強くなる場合があるという現象は、実際の構造物の管理でも活用されているということでした。
さらに、材料内部では、弱い結晶が消える、空隙ができる、新しい結晶が形成されるという“筋力トレーニング”のような変化が起こる可能性も紹介され、土木材料の奥深さが感じられました。前川先生から、この研究をしたのが校長の半井先生であると紹介されると、生徒たちは驚くとともに、一斉に半井先生に視線を送り、自分たちの校長先生の素晴らしさを改めて実感した様子でした。

これから求められる人材
講演の終盤では、「これからは総合診療医のような視点が必要になる」というメッセージがありました。
個々の専門分野を超えて、社会全体を見渡しながらインフラを支える力が求められているというお話は、多くの生徒の心に残ったようです。

また、「研究で使う知識の多くは中学・高校で学ぶ内容である」という言葉は、生徒たちにとって大きな励ましとなりました。

活発な質疑応答
講演後、生徒たちから次々と質問が寄せられました。
例えば、
•インフラに今足りないものは何か
•新幹線の橋脚の構造はなぜ場所によって違うのか
•微生物とコンクリートの関係
といった専門的な質問にも、前川先生は身近な例を交えながら丁寧に答えてくださいました。
どの質問にも真摯に向き合われる姿から、研究者としての深い知識だけでなく、教育者としてのお人柄も強く感じられました。



講演後には、「とても面白かった!」「こんな貴重な話を聞けるなんてすごい」といった声が多く聞かれました。
講演中も、生徒たちは前のめりになって熱心に耳を傾け、インフラや土木の世界への関心を大きく広げた様子でした。

今回の講演を通して、私たちの暮らしを支えるインフラの重要性と、その奥にある土木工学の魅力に触れることができました。
前川先生の示してくださった「社会のための技術」という視点を胸に、生徒たちがこれからどのように学びを深めていくのか楽しみです。

2026.05.21 18:05 | 固定リンク | お知らせ

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